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eBay取引と管轄権リスク|電話交渉・配送手配で買主州で裁判成立【Erwin v. Piscitello】

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eBay取引を“オフラインで深める”と買主州で訴えられる

  • eBay出品だけなら弱いが、電話交渉・自社手配配送・買主州での引渡しが重なると、その州で訴えられやすい。
  • 本件(Erwin v. Piscitello, 2007)は“追加行為”を理由にテネシーの管轄を肯定。
  • 実務は取引をプラットフォーム内で完結し、断定的表現や自社配送提案を控えて管轄リスクを管理。

事件の概要(何が起きた?)

2006年11月、テネシー州の買主(Louis H. Erwin, Jr.)はeBayで1962年式シボレー・インパラ・コンバーチブルを閲覧しました。出品者(Christopher L. Piscitello、テキサス州)は「mint(極上)」と品質を宣伝していました[F1]。

両者は複数回の電話やメールで交渉し、被告は「自分のドライバー」でテネシー州への配送を提案。買主は小切手を送り、車両はテネシー州チャタヌーガで引渡され、価格は5万ドルでした[F1]。

しかし受領後、買主はサビや非オリジナル部品を発見。契約違反、保証違反、詐欺・虚偽表示、テネシー消費者保護法(TCPA)違反を主張して州裁判所に提訴しました。

被告は連邦裁判所への移送を求め、人的管轄権がないとして却下を申立てました[F1]。

人的管轄とは、Aという州の裁判所がC州に住むBという人物をさばく権限があるかということです。

事件の結論

eBayで商品を売ると、買い手の住んでいる州で裁判になることがあります。

2007年、アメリカの連邦裁判所(U.S. District Court for the Eastern District of Tennessee, Chattanooga Division)による決定が出ました。

判決のポイント

「eBayで商品を1回出品しただけなら問題ないが、それに加えて以下のような行為をした場合、買い手の住んでいる州(この場合テネシー州)で裁判を受けなければならない」

追加の行為とは:
    • 電話で交渉する
    • 商品について詳しく説明する
    • 配送の手配をする
他の判例との違い

これは別の裁判(Boschetto v. Hansing事件、2008年)とは正反対の結果でした。

教訓:売り手にとってのジレンマ

売り手のジレンマは次の通りです。

  • 多くの州で商品を売れば売上は伸びる(販売拡大)。
  • しかし同時に、多くの州で裁判を起こされる可能性が高まる(訴訟リスク)。

つまり、eBayなどのオンライン販売では「売上拡大」と「裁判リスク回避」の両立という難しいバランスを取らなければならないのです。

どこが争点?

被告(テキサス州)=売り手

eBay出品は全国向けで「買主手配の輸送(buyer is responsible for shipping)」を明示。自分はテネシーで事業をしていない。したがってpurposeful availment(目的的受益)はないと主張[F1]。

原告(テネシー州)=買い手

被告は繰り返し電話で品質を断定的に表明し、自らの手配(“his driver”)でテネシーへ配送させた。よって被告のフォーラム向け行為(defendant-directed conduct into Tennessee)が存在し、管轄は肯定されるべきと主張[F1]。

なぜ買主の州で裁けた?

  • 特定人的管轄(specific personal jurisdiction)=「この取引に限ってその州で裁けるか」が問題になります。
  • 目的的受益/方向づけ(purposeful availment/direction)=相手州に自分から働きかけた行為(例:電話で品質を断定、州への配送提案、現地引渡し)。
  • 反復性(continuity)=接点の“量”より“質”が重視されます。

本件では「電話での品質表明+被告提案の州内配送+州内引渡し」が“追加行為”と評価され、管轄が認められました。

 

判決要旨:電話+配送など追加接点で管轄肯定[F1]。

裁判所は、テネシー長腕法(Tenn. Code Ann. §20-2-214)と合衆国憲法の適正手続(Due Process)の整合を検討し、第6巡回の三要素テスト(Southern Machine / Mohascoテスト)を適用しました。

  1. 目的的受益(purposeful availment)
  2. 関連性(arising from)
  3. 公正さ(fair play and substantial justice)[F1]。

本件では、(a)断定的な品質表明を電話で繰り返しテネシーに送信、(b)被告の提案でテネシー配送(トラックに被告会社ロゴとの主張)、(c)引渡し地と損害発生地がテネシー、という事実が認められ、①〜③を満たすと判断。被告の却下申立ては棄却されました(DENIED)[F1]。

裁判所は「通常のeBay取引だけでは足りない」とする他の判例(Action Tapes, McGuire, Boschetto地裁)を参照しつつ、本件はオフライン交渉や配送提案など“追加行為”があったため区別できると整理しました[F1]。

最終結果

  • 裁判所名:U.S. District Court for the Eastern District of Tennessee, Chattanooga Division(合意によりMagistrate Judge審理)
  • 事件名:Erwin v. Piscitello
  • 判例番号:Case No. 1-07-CV-67
  • 日付:2007-09-28(Filed)
  • 結論:被告の人的管轄欠缺に基づく却下申立てを棄却(Motion to Dismiss for Lack of Personal Jurisdiction DENIED)。よって、テネシーで審理続行となりました[F1, F2]。

売り手側の失敗の3つの原因

1.“出品だけ”では終わらない行為

eBayページには「Buyer is responsible for shipping」とあったにもかかわらず、被告が自らドライバー手配を提案し、買主州で引渡しを実現。この行為が裁判地との関係を強めました[F1]。

2.断定的品質表明(mint / great)の州内到達

電話やメールという“州境を越える行為”で品質を断定。これはテネシー住民に直接向けられ、詐欺・虚偽表示(fraud/misrepresentation)の訴因を構成しました[F1]。

3.反復性・取引の継続性(繰り返し取引をすること)

単発のクリック取引ではなく、複数回の交渉や引渡準備が積み重なり、接点の質”を濃くしたと評価されました(“It is the quality of the contacts, not the quantity…”)[F1]

貿易実務者向けの学び

1.買主州での管轄を“避けたい”売主向け:

取引はプラットフォーム内で完結(支払・配送全てプラットフォーム仕様に準拠)。個別の電話勧誘・断定的表明は避けます(purposeful direction=州内向け行為の抑制)[F1]。

配送は買主手配を徹底し、自社による配送提案・手配は原則しない。やむを得ず支援する場合も「助言のみ(advice only)」と明記します[F1]。

商品説明は事実ベースに限定し、「mint(極上)」等の広義形容は避ける/根拠資料を提示します(後日のmisrepresentationリスク管理)[F1]。

2.買主州での管轄を“取りに行く”買主向け:

品質・保証・配送・引渡地を自州(buyer’s forum)で履行するようメッセージで明確化し、記録保存(screen capture, PDF化)。

電話・メールのログ(日時・発信者・要点)を整理保存。州内到達の断定的表明があればpurposeful availmentの立証材料になります[F1]。

出品者の反復性(同州への継続出品・大量販売・地域ターゲティング広告)があれば追加接点として補強可能です(ただし事実の範囲内で)[F1]。

根拠(一次資料の要点)

Long-Arm(長腕法)×適正手続(Due Process)の二段階。第6巡回の三要素(purposeful availment / arising from / fairness)を適用し、電話・配送提案等の“追加行為”が州内に向けられた点を重視して管轄肯定[F1]。

通常のeBayオークションのみは不十分という他裁判所の流れを参照しつつ、本件は“オフラインで深めた”事実関係(反復の連絡・引渡地の州内化)により区別[F1]。

事件の素描($50,000、Impala、品質表明、チャタヌーガ引渡し、TCPA等)は裁判所メモランダム本文に明記されています[F1]。

今日からできるチェックリスト

  • 商品説明:主観的な形容詞(例:mint, flawless)は削除し、整備記録・鑑定レポート・高解像度写真といった客観的証拠に置き換える。
  • メッセージ運用:電話よりもプラットフォーム内メッセージを優先。やむを得ず電話した場合は直後に要点を記録し、相手の確認返信を残す。
  • 配送ルール:原則は買主手配。売主手配の場合は第三者業者の独立性を明示し、引渡地と危険移転時点を文書化する。
  • 広告ログ管理:州別配信ログ、ランディングページ、価格差の有無を保存し、将来の管轄立証や防御に備える

中小企業は特にここに注意!

「販売を伸ばすための“親切な一押し”」は、他州で訴えられる“法的な一押し”にもなり得ます。

eBay等のプラットフォーム“場”でしかなく、その後のオフライン交渉・配送提案・州内引渡しといった“追加行為”がpurposeful availment(目的的受益)として評価されやすいのが本件の教訓です。売上拡大と管轄リスクはトレードオフであり、どこまでオフラインで踏み込むかを設計段階で決めるべきだと学べます[F1]。

要点まとめ

  • eBay単発だけでは足りないが、電話交渉・配送提案・州内引渡しが重なると買主州で管轄肯定[F1]。
  • 品質の断定的表明が州内に到達し、損害発生地も州内なら、第6巡回の三要素テストを満たしやすい[F1]。
  • 売上拡大と管轄リスクはトレードオフ。メッセージ管理・配送設計・広告ログを整備してリスクを可視化・選択。

※本記事は法律的助言ではなく、貿易実務の参考情報です。

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