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B/Lで誰が運送人か?The Starsin判例に学ぶキャリアの判断基準

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「B/Lで誰がキャリアか?」のトラブル

  • The Starsin判例は「B/L表面のCarrier表示と署名が背面条項より優先」と判断
  • 契約上のキャリアは表面記載のCPSであり、identity/demise条項は補助的位置付けとなる。
  • 実務ではB/L表面確認と署名肩書のチェックで、請求先誤認や回収不能リスクを避けられる。

結論(要旨)

本件は、船荷証券(Bill of Lading, B/L)の表面に記載された「Carrier(運送人)」の表示と署名の形式が、背面の小字にあるアイデンティティ・オブ・キャリア条項(identity of carrier clause)やディマイズ条項(demise clause)よりも優先され、契約上のキャリアはCPS(チャーターラー)であると判断した重要な判例です[F1]。

=「B/L表面の表示が優先される」という実務ルールが明確になり、中小企業でも相手の誤認による回収不能に陥るリスクを避けやすくなりました。

判決要旨:『B/L表面のCarrierが優先する

事件の概要(何が起き、何が争われたのか?)

The Starsin事件は、マレーシアから欧州に木材などを運送した際、到着時に貨物の損傷が見つかったことから始まりました。

B/Lの表面には大きく“Continental Pacific Shipping(CPS)”のロゴが表示され、署名欄には“As Agent for Continental Pacific Shipping (The Carrier)”と明記されていました。

また、定義条項には“Carrier means the party on whose behalf this Bill of Lading has been signed(キャリアとは、このB/Lが誰のために署名されたかで決まる)”と書かれていました[F1]。

一方で、B/L背面の小字にはidentity of carrier条項とdemise条項があり、船主(Owner)側に責任を寄せる形になっていました[F1]。

争点

契約上のキャリアが船主なのかCPSなのか、さらに船主がヒマラヤ条項(Himalaya clause)によって不法行為責任から保護されるかどうか、という点でした[F2]。

事案の流れ

英国上院(House of Lords)は、銀行の運用規則(UCP)にも触れつつ、B/L表面の記載主体と署名の肩書を重視すべきと判断しました。その結果、“Carrier”の定義に従い、CPSが契約上のキャリアであると結論づけました[F1]。

次に、Himalaya条項とHague Rules(ヘーグ規則)の関係を検討し、条項解釈の限界から船主に全面的な免責は及ばないと整理しました。特に、所有権移転後に発生した継続損害については、一部荷主(Makros Hout)の不法行為請求が認められるとしました[F2]。

判例番号・裁判所・日付:[2003] UKHL 12(House of Lords, 2003年3月13日)[F1]。

なぜ、トラブルになったのか?

第一に、B/L表面の「Carrier」表示と署名肩書が実体を示しているにもかかわらず、背面の小字条項(identity/demise)によって相手方を船主と誤解する実務が残っていたことです。

第二に、NVOCCやフォワーダー経由の手配では印刷フォームが複雑で、署名の代理表示(as agent for …)を読み違え、クレーム先の特定が遅れる事態が生じていました。

第三に、Himalaya条項の保護範囲を過大評価し、船主や下流業者の免責がどこまで及ぶのかを、文言や規則(Hague Rules)に基づいて十分に検証していなかった点です[F1, F2]。

貿易実務者が学ぶべき5つのポイント

1.B/L表面の4点チェック

  1. ロゴや銘柄表示
  2. “Carrier”の明示
  3. 署名欄の肩書(“as agent for … (The Carrier)”など)
  4. Master署名か代理署名

などを確認します。判例はB/L表面の表示を優先するため、これらを基に相手方を確定します[F1]。

2.署名権限と定義条項の整理

定義条項(“Carrier means the party on whose behalf … is signed”)がある場合、表面の署名主体をキャリアとして扱い、クレーム先を決めます。背面のidentity/demise条項は補助的に理解します[F1]。

3.契約書式の標準化

自社でB/Lフォームを指定できる場合は、紛らわしいidentity/demise条項を削除するか、表面にキャリア名を明記させます。L/C条件(UCP)との整合も必ず確認します[F1]。

4.ヒマラヤ条項の確認

条項の番号立て、代理構造(carrier acting as agent)、Hague Rulesの非免責規定(Article III rule 8)との関係を条文ベースで点検します。下流業者への保護がどこまで及ぶかを事前に把握しておきます[F2]。

5.請求先のバックアップ

チャーターラーが倒産した場合(本件CPSのケースなど)でも、契約上のキャリアが特定できればP&Iルートや他の救済策に展開できます。B/Lの控え、交渉メール、署名者の身元資料を確実に保管しておきましょう[F1]。

今日からできるチェックリスト

B/Lレビュー書式の導入

表面の“Carrier”表示、署名の肩書、Master/Agentの区別、発行地、発行者を入力できる1枚テンプレートを用意します。

クレーム窓口の確定

B/L受領時に契約上のキャリアを確定し、通知先・保険・時効(Hague/HVの1年)を自動で紐づけます。

L/C条件との整合

UCPの「表面のみ審査」の慣行を踏まえ、表面でキャリアが明確に識別できる書式に統一します。

ヒマラヤ条項の棚卸し

自社標準B/Lや提携NVOCCの条項を点検し、下流業者保護の範囲を整理します。

保存と立証

署名者の氏名・所属・印影、フォームの版数、発行地を証拠化し、相手方を誤認した場合の反論材料にします。

インサイト(中小企業への学び)

B/L紛争の多くは「相手を間違えた」ことから始まります。The Starsin判例は、表面の表示と署名肩書を最優先とするシンプルな基準を示しました。

現場では、まずB/L表面を確認し、そのうえで背面条項で補完するという順序を守るだけで、請求先の混乱や時効失効を大きく減らせます。NVOCC経由の複雑なフォームでも、答えは常に“誰のために署名されたか”にあります[F1, F2]。

Factリスト

  • [F1]UK Parliament(House of Lords Judgments):Owners of cargo lately laden on board the ship or vessel “Starsin” v Owners and/or demise charterers of the ship or vessel “Starsin” and two other actions, [2003] UKHL 12, 13 March 2003(faceの記載・定義条項・identity/demise 条項)。https://publications.parliament.uk/pa/ld200203/ldjudgmt/jd030313/starsi-1.htm
  • [F2]UK Parliament(House of Lords Judgments):同判決(Himalaya 条項・Hague Rules・Makros Hout への言及)。https://publications.parliament.uk/pa/ld200203/ldjudgmt/jd030313/starsi-2.htm

※本記事は法律的助言ではなく、貿易実務の参考情報です。

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