KFTCが制裁:韓日・韓中航路の運賃
- KFTCが韓日・韓中航路の運賃・各種チャージの横並び決定を価格カルテルとして制裁
- 2025/5/1 最高裁が海運法の枠外なら独禁法で規制可を明確化=KFTCの権限を確認
- 実務は“費目ごとの単独決定”徹底か、共同行為なら届出・協議・公表の要件を厳格に。
概要
韓国公正取引委員会(KFTC)は、韓日および韓中航路において運賃や各種チャージを一律に設定する行為(price fixing / 운임·요금의 공동행위)を摘発し、課徴金や是正命令といった行政処分を行いました。英語版の公表資料では「South Korea–Japan / South Korea–China routes のコンテナ輸送サービスにおける価格カルテル」と明確に記載されています[F1]。
その後の司法審査では、海運法(Shipping Act=해운법)が共同行為を一定の条件付きで認めている一方で、届出などの要件を満たさない「運賃やチャージの共同決定」は独占禁止法当局の規制対象になり得ると最高裁が判断しました(2025年)。この判断により、KFTCの執行権限が正式に確認されています[F2]。
この記事では一次情報をもとに、「チャージを合意して設定する行為」が競争法の射程にどこまで含まれるのか、その境界線を整理します。特に中小荷主の実務に直結する視点で解説します。
事案の背景
2022/6/30(KFTCリリース)
韓国公正取引委員会(KFTC)は「Global Shipping Lines sanctioned for price fixing in container transport services on South Korea–Japan and South Korea–China routes」と題した資料を発表しました。これは、韓日・韓中航路のコンテナ輸送で運賃や条件を横並びに決めた価格カルテルに対し、制裁を行ったことを示しています[F1]。
2024/3/29(ソウル高裁判決要旨)
争点は「海運法29条で認められる範囲を超えた共同運賃決定について、KFTCに規制権限があるのか」でした。高裁は所管権限や解釈について判断を示しました(行政事件)[F3]。
2025/5/1(大法院=最高裁判決要旨)
最高裁は「運賃に関する共同行為は、海運法の要件を満たさない限り、独占禁止法(MRFTA)の規制を受ける」と明確に判断しました。要旨は「海運法が一定の共同行為を認めても、未申告など要件を欠く場合は公正取引委員会の規制対象になる」というものです(事件番号は不明、要確認)[F2]。
当局の主張
MRFTA(独占規制及び公正取引に関する法律)
運賃(freight rates=운임)や各種チャージ(surcharges=부대요금/할증료)を合意して設定することは「価格拘束(price fixing)」にあたります。KFTCは、韓日・韓中航路のコンテナ輸送での共同設定を「価格カルテル」と認定しました[F1]。
海運法(Shipping Act=해운법)
外航定期貨物運送事業者の共同行為は、事後届出や事前協議などの厳格な要件を満たす場合のみ認められます。届出(신고)、協議(협의)、公表(공표)のいずれかが欠けると、違法な共同行為と判断される可能性があるとKFTC文書でも示されています[F4]。
所管の交錯
海洋水産部(MOF=해양수산부)の所管との関係が争点でしたが、最高裁は「未申告など要件を欠く共同行為にはKFTCの規制権限が及ぶ」と明確に判断しました[F2]。
判決理由の要点
共同行為の条件は厳格
海運法29条(제29조)は共同行為を一部認めていますが、届出(30日以内)や荷主団体との書面協議などの手続要件を満たさなければ適法にはなりません[F4]。
規制対象は運賃本体だけでない
基本運賃(base rates)に限らず、最低水準の設定や各種サーチャージ(surcharges)、運送条件を横並びで決め、互いに監視する行為も「価格拘束」とされます。KFTCの英語リリースで示された「price fixing in container transport services」はまさにこれを意味しています[F1]。
独禁法と海運法の関係
両者は排他的ではありません。最高裁は、海運法の範囲外の共同行為は独占禁止法(MRFTA)の規制対象になると判断しました。要旨として「未申告の運賃共同は公取法の対象」と明確に線引きしています[F2]。
判決(決定)内容
KFTC(行政)
韓日・韓中航路での価格カルテルに対し、KFTCは制裁を発表しました(2022/6/30)。プレスリリースのタイトルは「Global Shipping Lines sanctioned for price fixing in container transport services on South Korea–Japan and South Korea–China routes」ですが、決定番号は不明(要確認)です[F1]。
司法審査
ソウル高裁(2024/3/29)では所管解釈が争点となり、その後、最高裁(2025/5/1)がKFTCの規制権限を認める方向で原審を修正しました。事件番号は不明(要確認)ですが、裁判所名と日付は判決要旨で確認できます[F3][F2]。
なぜ、起きた?トラブルの原因
制度と実務のギャップ
海運法は一定の条件を満たせば共同行為を認めていますが、届出・協議・公表といった形式的な要件が社内で形骸化しやすい状況にありました。その結果、「適法な共同」と「違法な価格拘束」の境界線をきちんと管理できていなかったのです[F4]。
費目をまたぐ“横並び”
基本運賃だけでなく、サーチャージ(surcharge)や運送条件までを横並びで揃える慣行がありました。これが「コンテナ輸送サービス全体にわたるprice fixing」と評価される原因になりました[F1]。
所管をめぐる誤解
一部では「海洋水産部(MOF)の所管だから独禁当局の対象外だ」と期待する声がありました。しかし最高裁は、未申告など要件を欠いた共同行為についてはKFTCの規制が及ぶと判断し、「二重基準による逃げ道」を塞ぎました[F2]。
貿易実務者(フォワーダ等)が学ぶべきポイント
「適法な共同」の要件をチェックリスト化
海運法29条と施行規則20条では…
- 届出(30日以内=within 30 days)
- 荷主団体との書面協議(written consultation)
- 運賃や条件の公表(publication)
上記の3点を満たさなければ共同設定は認められません。必ず社内稟議書にこれら要件を満たす証拠を添付して確認します[F4]。
費目ごとの“単独決定”を証拠として残す
基本運賃(운임)や各種チャージ(부대요금)は、費目ごと・発効日ごとに自社独自の根拠(原価、航路条件、為替、燃料指数など)を示して決裁します。他社の料率や導入日は参考資料から外し、横並びを避けることで、KFTCが問題視する「price fixing」に配慮します[F1]。
社外コミュニケーションの“赤線”
同業者の会合や協議会では、価格要素(最低水準、導入日、附帯料金の新設や増額)を議題にしないことを徹底します。もし議題に出た場合は即退席し、異議を議事録に残す仕組みを整えます。これは未申告や未協議の共同行為を防ぐためです[F4]。
荷主向け「費目定義書」の整備
見積書や長期契約には、費目の定義、算定式、改定条件、通知期限を別紙で明記します。「未記載の費目は請求不可」「改定は○日前までに予告」と条文化し、後から横並びで転嫁されるのを防ぎます。これはKFTCが指摘する「サービス全体での価格同調」を避ける実務策です[F1]。
所管のクロスチェック
共同行為が必要な場合は、MOFへの届出書式とKFTCのリスクレビューを同時に進めます。「海運法で認められれば独禁法でも大丈夫」という誤解を防ぎ、最高裁が示した線引きを社内で徹底することが重要です[F2]。
今日からできるチェックリスト
共同行為の要否判断票
費目、適法化要件(届出・協議・公表)、予定発効日、証憑添付の4点が揃うまでは社外に告知しないルールを徹底します。
費目別決裁ID
Base、Bunker、PSS、CAFなど各チャージごとに、自社独自の算定ロジックと決裁IDを付与します。他社資料の参照は禁止し、記録にも残さないようにします。
会合運用
会合で価格に関わる話題が出た場合は即退席し、異議をテンプレートで記録します。さらに社外送信前には「独禁法と海運法の二重チェック」を必ず行います。
荷主への説明
契約には費目定義書や改定根拠を添付します。「未記載の費目は請求不可」「改定は通知期限を守る」というルールを標準化し、透明性を確保します。
💡インサイト(中小企業への学び・わかりやすく)
「海運法で共同行為が認められているから大丈夫」と考えるのは危険です。届出・協議・公表といった形式要件を守らずに運賃やチャージを横並びで決めれば、KFTCによるprice fixing(公取法の規制)の対象になります。
そのため、費目ごとに自社で単独決定した証拠を必ず残すことが重要です。どうしても共同行為が必要な場合には、海運法の要件を文書で可視化しておく必要があります。これが、A/Nや見積書のわずか1行を重大な独禁リスクにしないための最短ルートです[F1][F2][F4]。
要点まとめ
- 韓日・韓中航路で、運賃や条件を横並びで一律に決めた「価格カルテル」が問題となり、KFTCが制裁を行いました[F1]。
- 海運法では一部の共同行為が認められていますが、厳しい手続きをすべて守った場合に限られます。届出を欠いた行為は独禁法の対象になります[F4][F2]。
- 2025年5月1日の最高裁判決で「KFTCが規制できること」が明確に示され、「MOF管轄だから独禁法の対象外」という誤解は完全に否定されました[F2]。
- 実務で大切なのは、各費目を独自に決定する姿勢を徹底すること。共同で行う場合は、その要件や理由を文書に残し、可視化しておく必要があります。これにより、見積書やA/Nの1行が重大な独禁リスクにつながるのを防げます。
Factリスト
- [F1] Korea Fair Trade Commission(KFTC)英語版プレスリリース一覧:「Global Shipping Lines sanctioned for price fixing in container transport services on South Korea–Japan and South Korea–China routes」(2022-06-30の項)
URL: https://www.kftc.go.kr/eng/selectSpeechesList.do?key=451 - [F2] 大法院(Supreme Court of Korea)主要判決(ニュース要旨):「海運法が共同行為を許容しても、運賃等の共同行為は海洋水産部の所管のほか公正取引委員会の規制も及び得る」趣旨(2025-05-01公表)
URL: https://www.scourt.go.kr/supreme/news/NewsList - [F3] ソウル高等法院 主要判決(行政):海運法29条の許容範囲とKFTC規制権限に関する判断(2024-03-29)
URL: https://highcourt.sjc.go.kr/ - [F4] KFTC 事件処理情報(公開文書):届出・書面協議・公表等の共同行為適法化要件と、要件不充足の場合の規制の枠組みを記述(해운법 제29조等の引用あり)
URL: https://case.ftc.go.kr/
※本記事は法律的助言ではなく、貿易実務の参考情報です。
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