日本で縫製工場を営み、既存の法人顧客向けにワイシャツなどの製品を供給している中小事業者にとって、価格競争や納期の短縮、労働力不足といった課題は深刻です。これまで国内生産で乗り切ってきた方も、今や「海外から仕入れて日本で販売する」輸入モデルに本気で取り組むべき時期に来ています。
この記事では、中国の縫製工場とのネットワークを活かしながら、貿易知識ゼロから輸入販売ビジネスを立ち上げるために必要な国際物流・貿易手続きに関することを解説していきます。
中国の縫製工場×輸入販売の立ち上げに必要なこと
輸入を検討する背景とよくある課題
多くの中小縫製業者が直面している問題は「コストを下げたいが、品質も落とせない」「国内だけでは納期対応に限界がある」「海外調達したくても貿易の知識がまったくない」という現実です。しかも、一歩間違えれば不良品や納期遅れなどのトラブルに巻き込まれ、損失が発生するリスクも高い。つまり、輸入は魅力的だが、同時に危うい面もあります。実際、多くの中小企業が“失敗した”という結果に終わるのもこの分野です。
小さな縫製工場でも輸入ビジネスは可能か?
しかし、正しい知識と段階的な進め方を身につければ、輸入販売は国内製造と比べてはるかに高収益を得られる可能性を秘めています。特に今回のように、「縫製工場を知る中国人スタッフ」が身近にいる場合は、極めて有利なスタートを切ることが可能です。必要なのは、貿易と物流の基礎を抑え、初回の輸入を“失敗しないよう慎重にやりきる”ことです。
貿易・物流で必要な手順:完全実務マニュアル
現地工場との取引スタート前にやるべきこと
まずは信頼できる現地工場の選定です。中国語に堪能なスタッフがいれば、1688.comなどで候補を洗い出し、ビデオ会議やメッセンジャー(WeChat)などでやり取りを重ねましょう。製品品質、納期、MOQ(最小注文数)、OEM対応可否、過去の輸出実績などを確認します。出荷前の検品方法(出荷前検査、第三者検査)も最初に確認しておくと良いでしょう。
次に、インボイス(見積書)と仕様書の整合性を取ります。ここでは、「日本人側が要求している品質」と「中国側の製造能力」が一致しているかをチェックします。曖昧な表現(例:上質な仕上がり、きれいな縫製など)は使わず、具体的な素材名、生地重量、色番、縫製寸法などの数値を明記しましょう。

何をもって良品とするのか?不良品とするのか? 品質基準を細かく定めることは貿易トラブルの防止につながります。必ず契約書に明記し水掛け論にならないようにしましょう なお、品質の検証等を専門に行う検査会社も存在します。(契約通り製造されているかなどの検証)

支払い条件はT/T(30%前金、70%出荷前)を基本に。信用状(L/C)は事務コストが高く、最初の小ロットには不向きです。
国際輸送と通関の準備
輸送方法は数量と納期によって決まります。300枚以下ならDHLやEMSでの航空便、それ以上であれば海上輸送(LCL混載便またはFCL)を検討しましょう。CIF契約(送料・保険込み)で価格を確定してもよいです。
ですがFOB契約で日本側が輸送を手配したほうが輸送業者の選定やトラブル時の対応が柔軟です。FOBを選べば(ノミネーションフォワーダー)、複数のフォワーダーに見積もりを出すこともでき、物流コストの最適化がしやすくなります。
通関には、インボイス、パッキングリスト、B/L(船荷証券)、必要に応じて原産地証明書が必要です。通関業者を使うことを前提に、事前に輸入予定商品(HSコード)を伝えておき、関税・消費税の見積もりも取得しておきましょう。
例えば、綿100%のシャツであればHSコード6205.20に該当し、関税は約7.5%(2025年5月現在)です。EPA適用国(ベトナム、タイなど)からの輸入であれば、この関税が0%になることもあります。中国製品の場合は中国RCEP適用で5.1%です。調達国選定の参考にしてください。
輸入後の関連法:家庭用品品質表示法
繊維製品には家庭用品品質表示法が適用されます。素材、原産国、洗濯表示などを商品にラベル表示する義務があるため、国内に入荷してから貼付する工程を含めて計画しましょう。または、中国工場での貼り付けでも良いです。
例:「ポリエステル65%、綿35%、中国製、手洗い可」といったタグ
さらに、送料・関税・検品費用・ラベル貼付などを含めた総コストを事前に試算しましょう。
コストの資産例:シャツ300枚を輸入した場合
- 商品代金:@700円 × 300枚 = 210,000円
- 海上送料・通関・配送:30,000円
- 関税(8.5%):17,850円
- 消費税(10%):(210,000+30,000+17,850)×10% = 25,785円
- → 合計:283,635円 → @945円/枚 となります。
- 実売価格と照らし合わせて、利益確保の見込みを必ず検証しておきましょう
なお、国際輸送や通関についての疑問は、フォワーダーや通関業者、ミプロ等でできます。弊社としては、中国物流の専門のフォワーダーに相談されることをお勧めします。

家庭用品品質表示法は、アパレル製品を日本国内で流通・販売する際に守るべきものです。いわゆる品質表示タグについて規定しています。
輸入の成否を分ける2つのシナリオ
ここでこのビジネスにおける失敗シナリオと成功シナリオをご紹介します。
失敗シナリオ(確率60〜70%)
初回でよくある失敗例は以下の通りです。
- サンプルと量産品の品質が違う
- 仕様書があいまいで、サイズ違いや色ズレが起こる
- 通関時にHSコードの誤分類で追加課税される
- ラベル不備で販売できない
- 航空便の選択ミスで赤字になる
これらはJETROや中小機構の支援実績でもよくある相談事例であり、初回輸入では何らかのトラブルが起きる確率は6〜7割と言われています。
成功シナリオ(初回成功確率30〜40%、2回目以降は70%以上)
- テストロットで初回を少量に抑える
- 明確な仕様書と検品手順を工場と共有
- 中国人メンバーが交渉をリードし、日本人メンバーが品質管理を担当
- 通関・輸送は信頼できるフォワーダー1社に任せる
- 入荷後の品質チェックと表示ラベル貼付を内製化
こうした取り組みが成功率を高め、2回目以降は安定的に収益化できる状態に入ります。
成功確率を上げるために今できること
- 契約書と仕様書をセットで雛形化しておく
- 通関業者・物流業者と事前に打ち合わせし、シミュレーションを行う
- 第三者検品(SGS、Intertek等)を活用し、現地で品質確認
- ラベル表示の義務とテンプレートを確認し、国内印刷体制を整備
- 支払い・輸送・販売までのキャッシュフローを見える化
輸入ビジネスの第一歩を着実に進めるために
日本の縫製工場が輸入ビジネスに取り組む際、最大のリスクは「初回の失敗」です。しかし、この記事で示したように、実務知識と役割分担、段階的な進め方を取り入れることで、そのリスクを大きく抑えることができます。中国人スタッフのネットワーク、日本人スタッフの品質管理能力、国内の販売ルートという三拍子が揃っているなら、あとは慎重に第一歩を踏み出すだけです。




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