輸入ビジネスで気を付けたいのが税関の事後調査です。事後調査とは、輸入許可日から3年後、または、5年後などに行われる税関の立ち入り調査です。税務署の調査のように、事業所に訪れて、輸入関係資料を確認して、輸入関税の取り忘れがないのかを調べます。
事後調査で多く見つかる違反は「評価の申告漏れ」です。評価とは、輸入価格(インボイスに記載の金額)に加算すべき費用のことです。この加算漏れを指摘される方が多いです。そのため、税関は….
- 何を含めた価格を商品価格(輸入価格)とするのか?
- 商品価格に適切な関税率をかけられているのか?
を重点的にチェックし評価漏れを探します。評価漏れが起きれば、輸入の課税価格が上昇するため、自動的に追加の納税義務が発生します。税関は、税金を徴収できるため、評価につながります。
そこで、この記事では、「評価申告」について詳しくご紹介していきます。
評価申告と輸入 / 加算するべき費用とは?
日本に商品を輸入するときは、税関へ輸入申告します。一般的に、輸入する価格(課税価格)が20万円以下であり、海外のネットショップで商品を購入した場合は、自動的に課税処理がされて、商品が届きます。
今回、ご紹介する内容は、輸入する価格が20万円を超える、かつ、コンテナやLCL(コンテナ未満の配送方法)などで商品を輸入するときに当てはまることです。
輸入する商品の合計価格が20万円を超えるときは、税関に対して、自ら申告して、必要な関税と消費税を支払い貨物を受け取ります。この輸入申告は、自らの他、通関業者を通して申告もできます。
輸入価格=課税価格とは?
輸入申告は、税関に輸入許可を受けるための手続きです。具体的には、次の2つの観点で行います。
- 私は●●の商品を○○個輸入します。
- 上記の商品の関税と消費税は、●●円なのでお支払いします。
これを輸入者自らや通関業者を経由して行います。これが輸入申告です。
納税額の計算等は、輸入者(通関業者)が自ら計算して納付します。そして、税関には、納税額の計算の根拠資料として、以下の資料を提出します。
納税の根拠となる輸入申告価格の重要性
輸入申告価格は、納税の根拠となるため非常に重要です。仮のお話として、不正な目的で輸入申告価格を偽れば脱税が可能です。だからこそ、税関は、事後調査等をして、後述する評価漏れやアンダーバリューの有無を確認しているのです。
輸入申告価格は….
- 計上するべき費用が適切であること
- 該当する商品のHSコードが適切であること
この2つが重要です。そして、今回、お伝えする評価は、1番の計上するべき費用が適切であるのか?に関係してきます。
例えば、海外から日本円価格1000円の商品を輸入したとしましょう。このとき、この貨物を運ぶのに、500円の送料。保険代金に300円も一緒にかかると、税関への申告はいくらでしょうか?
答えは、1000円+500円+300円=1800円です。決して1000円ではないです。
では、仮にこれら以外の費用が発生しているとしたら、加算するべきなのでしょか? それとも加算しなくても良いのでしょうか? この考え方が「評価申告」です。
評価とは?
評価とは、輸入商品代金以外で、輸入申告価格に加えるべき費用の総称をいいます。
例えば、輸出国から日本までの送料。日本から海外工場に送った無償の金型などあります。要は、輸入申告の価格(課税価格)に含めるべき追加費用だと考えれば良いです。
課税価格
関税定率法4条によると、課税価格とは、
1.買い手から売り手
2.売り手のために
輸入貨物に対して……
1.現実に支払った。 又は
2.支払われる予定の費用
と決められています。商品代金+加算するべき費用(評価)=課税価格です。
では、今一度、「加算するべき費用=評価」の部分を詳しく見ていきましょう!
外国から商品を運ぶには、船や航空機などを使う必要があります。もし、製造するときに買い手側から何らかの提供があり、その分が輸入の取引価格から引かれている場合は、その貨物本来の価格を正しく計算できません。これは、日本の国内産業がフェアな環境下で競争をする上でも重要です。
輸入申告価格(課税価格)=商品代金+加算するべき費用の合計
例1.無償の資材を海外工場に送付する例
例えば、原材料の一部を日本から無償で提供して、それを使いベトナムで完成品に仕上げる場合などです。仮に、完成品の価格が1000円、その内、日本から無償で提供している原材料の価格が700円分であれば、輸出者は、輸入者に対して300円のインボイスを発行すればいいです。
しかし、本来の完成品価格は、原材料700円を含めた1000円です。これを日本の税関に申告するときに、原材料分を差し引いた、残りの300円で輸入申告をされると、貨物本来の適切な価格を反映していません。この場合、課税価格が小さくなるため、当然、支払う関税額も減少します。
加算例:無償で提供した資材、副資材は加算するべき費用
例2.金型を無償で渡して海外の工場で作らせた例
日本から海外に「金型」を無償で提供して商品を作らせた。これを日本に輸入した。これも本来は、海外工場が自ら調達して用意した上で製造するため、課税価格は、日本から無償提供した金型部分の価格も含めて計算します。
このように輸入代金に正しい価値を反映させるのが評価の考え方です。もし、自社等の輸入商品を製造する上で売り手側に何かを提供しているときは、評価漏れが起きていないかを確認しましょう!
以上が輸入申告、課税価格と評価申告の関係です!
ここから先の内容は、さらに専門的になるため、必要な方は、読み進めて下さい。
輸入申告価格は、インボイスの価格+加算すべき費用(評価申告)の合計
専門記事1:評価の計上方法例(按分方法)
例えば、日本の金型を海外工場に輸出。その金型を使い商品を輸入する場合は、評価(金型の代金+海外工場までの輸送費)どのように計上するのでしょうか? 評価の計上方法は、一括と按分の2つがありますが、基本は「按分計上」です。
例えば、
- 金型が200万円
- 金型を海外工場に送る送料が50万円
- 契約金額が300万円
- 輸入回数は5回の場合
評価の合計は、250万円です。これを一回の輸入金額で按分すると、次の通りです。
輸入回数 | 契約金額の内… | 計上する評価分 |
1 | 20万分を輸入 | 250*20/300 |
2 | 80万分を輸入 | 250*80/300 |
3 | 30万分を輸入 | 250*30/300 |
4 | 100万分を輸入 | 250*100/300 |
5 | 70万分を輸入 | 250*70/300(残り全部) |
1回目から5回目の輸入申告をするときは、商品代金の他、背景が黄色部分のように評価を加算します。しかし、実際、この評価の計上で必要な書類、計算方法等は、すべて通関業者がアドバイスをしてくれます。「評価=加算するべき費用」の仕組みがあることを覚えておきましょう!
専門的記事2:課税価格を決めるときの考え方
課税価格に含める費用は、関税定率法4条と関税定率法施行令に記載されています。関税定率法と施行令は、法と政令の関係にあり、定率法で大枠の枠組み、施行令で細かく規定しています。
課税価格を決めるときは、大きく分けて次の2つがあります。
- 原則的な課税価格の決定方法
- 原則的な課税価格の決定方法以外
この2つの違いは、後述する「特殊な輸入取引をしているのか?」または、「輸入取引には該当しない取引」などにあります。原則的な課税価格の決定方法を詳しく見ていきましょう。
1.原則的な課税価格の決定方法
一般的な輸入の場合は、商品代金の他、次に記載する費用を加えた物を「課税価格」とします。もちろん、ご自身が当てはまる物のみを計上します。
あなたが…….
- 国際輸送代金+保険代金
- 買うときに手数料・仲介料を支払っている。
- 海外工場で製造する貨物の容器、包装を提供している(間接や直接を問わない)
- 海外工場で製造する貨物の資材や役務(直接や間接を問わない、)を提供している。
- 海外工場で製造する貨物の材料や部品の提供している。
- 海外工場で製造する貨物を生産するときに使う工具や金型を提供している。
- 海外工場で製造するときに消費された技術、設計、考案、工芸、意匠(日本以外で開発されたものに限定)を提供している。
- 輸入貨物にかかる特許権や商標権、実用新案権、著作権及び著作隣接権、ロイヤルティ又はライセンス料などのライセンス使用料(買い手が負担する物)を負担している。
- 買い手(輸入者)が輸入貨物を使用することで「売り手の利益につながる物」
などを支払っているときは、課税価格に含めます。
例えば
- 日本から無償で副資材を送り、現地の工場で完成品に仕上げる。
- 日本から金型を提供。現地の工場で輸入品を製造。
- 海外の現地で資材を調達。輸入品を製造する工場に無償提供
- 本来、海外工場がライセンス料を支払って製造しなければならないのに、そのライセンス料をあなた(買い手)が払っているなど
- 海外の工場で生産するときの人件費を負担しているなど。
加算しない費用例
加算しない費用は、次の3つです。
- 輸入貨物の据付け、組立て、整備又は技術指導の費用
- 輸入港到着後の運送、保険代金
- 関税や消費税
課税価格に含めるべき費用は「日本の輸入港到着まで」と決められているため、インボイスに「輸入港到着後」の諸費用が含まれている場合は、それを除外できます。
例えば、インコタームズを「DDP」にすると、日本の輸入港到着後の国内運送費や様々な諸費用に加えて、日本側の関税や消費税がインボイスに含まれています。よって、この場合は、インボイスからそれらの諸費用を除いた部分を課税価格にします。但し、日本港以降の費用を明らかにできない場合は、この原則的な課税価格の決定方法の利用はできません。
2.原則的な課税価格の決定方法以外の方法
次に原則的な決定方法では、課税価格を決められない場合を確認していきましょう。次の2つのケースがそれにあたります。
- 輸入取引に関して特別な事情がある場合
- 輸入取引に該当しない場合
1.輸入取引に関して特別な事情がある場合
1.買い手による輸入貨物の処分や使用に制限(販売地域の限定は除く)
2.輸入貨物の取引価格が別の取引に依存している場合
3.売り手と買い手との間に「特殊関係」があり、輸入貨物の取引価格に影響を与えているとき
特殊関係とは?
特殊関係とは、買い手と売り手の間に、正常な輸入取引価格を実現できない要素が含まれている関係をさします。
例えば、アメリカにいる親と日本の子供が取引をするケースです。親が「子供向けの輸出だから、本来100ドルの所、20ドルでいいや~」と、本来の取引価格ではない価格で輸出をするケースです。このような親族関係の他、次のケースも特殊関係があるとみなされます。
- 売り手と買い手が共同経営者
- 一方が他方の使用者
- 一方が議決権がある株式の5%以上を所持・管理している
- 一方が他方を支配している(直接・間接問わず)
- 売り手と買い手のどちらも第三者の支配下にあるとき(この逆もあり)
- 売り手と買い手が親族関係にある
委託取引をしている場合はどうなる?
例えば、以下のような「委託」と「受託」の関係にある場合の課税価格は次の通りです。
- 委託者→受託者
- 委託者が原料や材料を提供
- 委託者が提供する原料を外国に送付して加工又は組み立てをする。
- 最終的には、完成品を委託者が取得する場合
2.「輸入取引ではない」ケース
そもそも輸入取引の定義を満たさない場合もあります。関税定率法4条によると、輸入取引の定義を除外する物として「買手が本邦に住所、居所、本店、支店、事務所、事業所その他これらに準ずるものを有しない者であるものを除く。」とされています。
輸入取引ではない具体例
- 無償貨物
- 委託販売の輸入貨物
- 売手が税関事務管理人を立てて輸入した物
- 賃貸借契約に基づき輸入される貨物
- 輸出者の所有権が存在し続ける貨物
- 同じ法人格の取引(支店)
課税価格を決める方法
上記、1や2のケースに該当する場合は、課税価格は、次の手順により決定します。1から検討を開始して、課税価格を決められるまで続けます。例:1で検討→×→2で検討→〇など。
- 同種又は類似の貨物の取引価格
- 国内販売価格からの課税価格の決定
- 製造原価からの積み上げによる課税価格の決定
評価申告の対象かをチェック
あなたの輸入取引が評価申告の対象であるのか?を確認しよう。
- 親族など、特殊な関係にある相手との取引でないか?
- そもそも輸入取引の定義に該当するのか?
- 売り手に何らの物を送付していないのか?
例:副資材や役務の提供、ライセンス使用料など。
上記のいずれかに該当する場合は、課税価格を検討する上で、特別な基準により課税価格を決めたり、使った費用等を計上したりする必要があります。税関の事後調査では、この「評価漏れ」による追徴課税等が多いです。気を付けましょう
詳細:課税価格の決定原則
事後調査での違反は、評価申告漏れが多い。
税関の上級行政庁である財務省の発表によると、税関における事後調査で見つかる違反で最も多いのが、この評価漏れです。「え?この費用も含めるの?」と驚くことも多いです。もし、評価対象の費用かわからない場合は、各地の税関における「業務部 関税評価官」に相談しましょう!
修正申告をしよう!
もし、関税評価官に相談した結果、過去の輸入申告の内容について「ヤバイ!評価漏れだ!」と気づいたら、なるべく早めに「修正申告」をしましょう! 修正申告とは、過去の輸入申告の内容について、納めるべき税金の誤りが判明したときに、税関に対して修正することです。(税額が多くなるとき=修正申告、税額が少なるとき=更生の請求)
修正申告は、取引をしている通関業者に頼むと行ってくれます。ただし、新たに加算すべきとなった費用の根拠を示す書類を用意する必要があります。
以上、輸入申告価格に含めるべき加算要素の説明でした。
まとめ
- 輸入申告価格=商品代金+加算すべき費用
- 基本的には、輸入申告価格=商品代金+配送料+保険代金
- 配送代金や保険代金以外に加算すべき費用があるときは、それらを計上します。
- 加算すべき費用は、日本から無償で提供する物品、役務、手数料、金型などがあります。
- 加算すべきか迷ったら、関税評価官に相談する。
- 関税は「課税価格」に基づきかかる。
- 課税価格は、商品の価格と評価の合計
- 評価とは、関税定率法4条に規定されている「加算するべき費用」
- 加算するべき費用には、海上運賃の他、各種手数料などがある。
- 輸入者は評価漏れが発生しないように、随時取引内容を確認する必要がある。
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