日本ではコメの自給率が高いため、コメは輸入されていないと思いがちです。しかし、実際は、さまざまな理由から一定量のコメを海外から輸入しなければならない状況です。とくに、アメリカ、タイ、中国、ベトナムなどからの輸入が目立ち、加工食品向けや業務用、備蓄用など、さまざまな用途で活用されています。
この記事では、日本が米を輸入する理由、米の輸入制度、関税制度、検疫手続き、調整金の仕組み、米の個人輸入の方法について詳しく解説します。
なお、米を個人消費目的で輸入する方は、ページの下部をご覧下さい。
米を輸入する方法
日本のコメ輸入制度とは?自由化はされている?
日本のコメの輸入は、1995年のウルグアイ・ラウンドで導入された「ミニマム・アクセス(MA)制度」に基づいて行われています。
ミニマム・アクセス=最低、輸入量(強制的に輸入する義務)
日本は、この制度に基づき、年間約77万トンのコメを他国から輸入しています。米は、3つの輸入方法(買い付け方法)があります。
- 政府調達(一般方式)
- 政府調達(SBS方式)
- 政府調達以外(MA域外の輸入を指す)
1-1. 政府調達(一般方式)
政府購入型×MA一般方式は、次の通りです。
- 政府がコメを代わりに輸入する事業者(A)を決める。
- A名義で輸入する。
- 政府は米(Aが仕入れた物)を買い取る。(買取価格)
- 政府は、入札を実施し買取希望の業者を募る。
- 政府は、入札で決まった業者に米を売却する(受け渡し価格)

主に加工用や飼料用にされます。
1-2. 政府調達(SBS方式)
SBS方式の仕組みは次のとおりです。
- 輸入者と国内の実需者(米を必要とする事業者)がペアで入札に参加
- 国の売り渡し価格(1の業者が入札)と買い入れ価格の差が大きい物から落札
- 国、輸入者、実務者の3者で契約をする。
- 契約後、国が仲介(輸入者と実務者)し、買取と売却を実行する。
2. 政府調達以外
なお、MA枠外でのコメ輸入には極めて高い関税が課されます。具体的には、1キログラムあたり341円(49円/kgの関税と292円/kgの調整金)
制度 | 関税 | 調整金 |
政府調達×MA一般 | × | × |
政府調達×SBS方式 | × | 〇 292円/kg |
政府調達以外 | 49円/kg | 292円/kg |
日本が輸入しているコメの量と国別の内訳
コメの年間輸入量は、2023年時点では約75万トン程度が輸入されています。そして、その大部分がMA枠内での輸入です。これらは外食産業、食品加工業者、災害備蓄などに向けて流通しています。
アメリカ産の米
輸入先国としては、アメリカが最大です。(=全体の過半数)アメリカからは主に中粒のカルローズ米が輸入されており、日本の加工食品業界(パックご飯、弁当用米、菓子原料など)で活用されています。
次点はタイ産の米
次いで多いのがタイです。タイからは細長く香りのあるインディカ米が多く輸入されており、カレーやアジア料理専門店での需要があります。また、中国、ベトナムなども主要供給国であり、とくに加工・工業用の需要が高い傾向があります。
国別輸入量の変化は、為替相場、物流状況、現地の気候などにも影響されるため、安定供給を確保するには複数国からの調達体制を整えることが望ましいです。
輸入実績と輸入価格
財務省統計局の資料によると、2024年におけるコメの輸入状況は次の通りです。
2024年、10カ国中の上位5カ国(数量順) 1006.30-010
国名 | 数量 | KG単価(円) |
アメリカ合衆国 | 317987 | 142 |
タイ | 278972 | 102 |
オーストラリア | 30653 | 116 |
中華人民共和国 | 25604 | 119 |
台湾 | 4556 | 147 |
2024年、11カ国中の上位5カ国(数量順) 1006.30.090
国名 | 累計数量 | KG単価(円) |
タイ | 726 | 160 |
スリランカ | 325 | 105 |
ベトナム | 192 | 137 |
アメリカ合衆国 | 176 | 189 |
インド | 141 | 217 |
(※2024年時点、財務省統計より)

上記は、コメが日本の港に到着したときの価格です。この価格に関税、調整金、業者の利益等が上乗せされて小売り価格になります。なお、農林水産省からの売却情報は入札結果に掲載されています。
例えば、令和6年12月20日のWTO・SBS枠)の結果をみると…
- アメリカ うるち精米中粒種
- 買い入れ価格=トン当たり206,113円(政府が業者Aから購入する価格)
- 受け渡し価格=トン当たり521,473円(業者Bが政府から購入する価格)
そして、この差額(315,360円)が調整金です。なお、調整金は292円ですが、なんと、政府は、この調整金にも消費税をかけているようです。(二重課税)
貿易統計の見方 輸入価格の他、輸出チャンスがある市場も調べられる!
コメの関税制度と調整金の仕組みを理解する
日本にコメを輸入するときの最大のハードルが「関税」と「輸入納付金」です。
関税
まず関税についてですが、MA枠内での輸入には原則として関税が課されず、非常に低い税率での輸入が可能です。一方で、枠外からの輸入には非常に高額な関税が設定されており、実質的には商用輸入が成立しない水準です。(理論上は可能)

最大、342円/kgの関税(調整金含む)+8%の輸入消費税がかかります。(ミニマムアクセス枠以外の輸入)
調整金(SBS方式)
SBS方式で輸入する場合は、輸入納付金がポイントです。輸入納付金とは、輸入業者が政府に対して支払う価格調整費用で、落札価格に加算される形で発生します。この金額は入札時点で決定されるため、調達コストに上下が生じやすいです。
根拠法令:調整金の額(精米を参照)

バターの輸入調整金とも似ています。→バターが高い本当の理由|関税と輸入制度の裏側を徹底解説
米を輸入するときの原価計算例(枠外輸入の例)
輸入原価(仕入れコスト)=輸入価格(CIF価格)+関税+消費税+調整金(米麦等輸入納付金)+国内輸送費・保管費
計算条件 2025年月現在の例
- 輸入価格(商品価格): 1kgあたり150円
- 関税: 1kgあたり341円/kg(域外の輸入)
- 消費税率: 8%
- 輸入量: 200kg
計算手順
1. 輸入価格(商品価格)の合計
輸入する商品の総額を計算します。
- 輸入価格合計=輸入量×単価
- 輸入価格合計=200×150=30,000 円
2. 関税の合計
関税は輸入量に対して課されるため、以下の式で計算します。
- 関税合計=輸入量×関税率(1kgあたり)
- 関税合計=200×341=68,200 円
3. 消費税額の計算
消費税は、商品の価格と関税を合算した金額に対して課されます。以下の式で計算します:
- 消費税額=(輸入価格合計+関税合計)×消費税率8%
- 消費税額=(30,000+68,200)×0.08(消費税率8%)=7,856 円
4. 総輸入コストの計算
総輸入コストは、商品の価格、関税、消費税をすべて合算したものです。以下の式で求めます
- 総輸入コスト=輸入価格合計+関税合計+消費税額
- 総輸入コスト=30,000+68,200+7,856=106,056円
結果
- 輸入価格合計: ¥30,000
- 関税合計(調整額含む): ¥68,200
- 消費税額: ¥7,856
- 総輸入コスト: ¥106,056

この結果から、アメリカから商業目的で200kgのコメを輸入した場合、最終的なコストは約106,056円となります。
詳細資料:主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律の施行に関する告示(米麦等輸入納付金)
輸入検疫と食品衛生上の法的手続き
コメは植物性食品であり、輸入時には2つの法令の規制を受けます。
- 植物防疫法
- 食品衛生法
1. 植物防疫法
コメに害虫や病原菌が付着していないかどうかを輸入港で確認し、必要に応じて燻蒸処理などが行われます。検疫をパスしない場合、積戻しや廃棄の対象になるため、輸出元での衛生管理が重要です。
2. 食品衛生法
次に、食品衛生法に基づいて「輸入届出」を厚生労働省へ提出します。輸入届出には原材料情報、加工工程、製造工場の衛生証明書などが求められ、輸入初回には検査命令が出される可能性があります。
とくに問題になりやすいのが「残留農薬」や「ポストハーベスト農薬(収穫後に使用する防カビ剤等)」の基準です。日本と輸出国とで使用可能な農薬の基準が異なるため、現地の農薬使用履歴や検査証明書の取得が重要です。とくにアメリカや中国、東南アジア各国からの輸入では、事前に現地業者と明確な確認が必要です。
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個人使用目的で米を輸入するには?

個人使用目的で輸入する場合は、商売目的で必要となる調整金等の納付、食品検疫等は不要です。但し、個人使用目的の輸入には、明確な定義があります。そこから外れる輸入は、商用輸入です。
個人で海外から米を輸入する場合には、「個人使用」が前提条件です。これは、自分自身や家族、あるいは友人へのお土産など、営利目的でないことを意味します。輸入する量も重要で、過去1年間に輸入したお米の合計が100kg以下であることが必要です。
たとえば、通販サイトでアメリカ産のカルローズ米を10kg注文したとしても、年内に何度も注文して100kgを超えてしまうと、関税と納付金の支払い義務が発生します。逆に、100kg以内であれば、一定の条件を満たすことで関税と納付金は免除されます。
ただし、この免除を受けるためには、農政局または空港の植物検疫所において届出を行うことが条件です。事前または入国時に正しく手続きをしないと、免除は認められません。
この制度は、農林水産省と税関が定めるものであり、正しく届出をすれば、個人でも合法的にお米を輸入することが可能です。
個人輸入の流れと必要な手続き
個人で米を輸入する際には、「植物検疫」と「個人輸入の届出」という2つのステップをクリアする必要があります。まず、植物検疫では、輸入されるお米に害虫や病原菌が付着していないかどうかをチェックされます。
この際、輸出国で発行された植物検疫証明書(Phytosanitary Certificate)の添付が求められます。真空パックであっても例外はありません。証明書がない場合、検疫が通らず、最悪の場合、差し戻しや廃棄となるため、確実に入手しておきましょう。
次に、個人輸入の届出です。こちらは、日本に到着した際、空港の植物検疫カウンターや、最寄りの農政局にて届出書を提出します。届出書は3枚複写になっており、そのうちの1枚を通関時に税関へ提出する必要があります。
また、本人確認書類(運転免許証や保険証など)の提示も求められるため、準備を忘れないようにしましょう。届出書の記入例や書式は、農林水産省の公式サイトからPDF形式でダウンロードできます。
ケース別:個人輸入の具体例と注意点
よくあるケースは、以下の2つです。
- 海外旅行先で購入して手荷物として持ち帰る
- 海外通販で購入し直接自宅に配送してもらう。
1. 手荷物として持ち帰る
手荷物で持ち込む場合は、到着空港の植物検疫カウンターにて届出を行います。別送品として航空便や船便で送る場合は、通関前に最寄りの農政局で事前届出をすることも可能です。どちらのケースも、輸入する米の量や用途が自己消費であることを明確にします。

海外から手荷物として持ち帰ってくる。又は別送品として送る。どちらも海外旅行者の免税制度を適用できる可能性があります。(総額20万円相当かつ、米穀の輸入に関する届出書を提出した場合のみ)
2. 海外通販で購入し直接自宅に配送してもらう。
海外通販でよくあるのが、現地業者側で「植物検疫」の要件を理解していないケースです。個人輸入とはいえ、日本側の法令に違反すれば、輸入品は差し押さえの対象です。購入前に、販売者が日本向けの輸出に対応しているか、証明書の発行が可能かを確認するようにしましょう。
たとえば、「ギフト扱い」として送付された場合でも、法的には課税対象となることがあるため、内容品の申告には十分注意してください。

海外通販の場合は、一般税率が適用されます。
個人輸入に役立つ実務のコツ
初めてお米を個人輸入する方は、できる限り実績のある販売者や、検査証明書を発行してくれる輸出者からの購入をおすすめします。また、輸送手段によっても通関のしやすさが変わるため、航空便での小口輸送が比較的スムーズです。
米は食品であり、衛生管理と法令遵守が非常に重要な品目です。通関で問題が起きると時間もコストも大きくロスしますので、事前準備を入念に行いましょう。
個人でコメを輸入する際のポイント
コメの個人輸入は、少量であれば可能です。具体的には、次の条件を満たすことを「個人」としています。個人扱の場合は、調整金や関税は免除されます。
- 規模の大小に関わらず、商売目的でないこと
- 年間の合計輸入数量が100KG以下であること
- 自己消費であることが明確であること
- 本人、家族や知人の分の自己消費やお土産であること
上記の全てを満たすことが「個人使用」です。逆に満たさない場合は、商業目的の輸入とされて、調整金の納付が必要です。

輸出国政府機関が発行する検査証明書(Phytosanitary Certificate)を添付します。
今後の動向とコメ輸入ビジネスの可能性
日本国内では、農業人口の高齢化や耕作放棄地の拡大などを背景に、コメの生産量が年々減少しています。一方で、外食・加工食品市場は拡大を続けており、今後、コメの輸入がより重要な役割を果たす可能性があります。
TPPやRCEPなどの国際的な貿易協定の拡大によって、今後関税制度が見直される可能性もあり、実務者はその動向に注目する必要があります。仮にMA枠の拡大や関税率の引き下げが行われれば、新たなビジネスチャンスが生まれることになります。
また、地政学的リスク(国際紛争、通貨危機など)や、物流面での混乱(運賃高騰、港湾の混雑)も輸入業務に大きな影響を与えます。これらに備えるためには、複数の調達ルートを確保し、長期契約を活用するなどの戦略が必要です。
今後、輸入ビジネスを成功させるためには、単なる価格比較にとどまらず、制度理解、品質管理、法令遵守、供給安定性の4つの視点から全体戦略を構築することが求められます。
まとめ
- 日本はWTOの合意に基づいて、年間約77万トンのコメをミニマムアクセス制度で輸入
- 主な輸入先はアメリカ、タイ、中国、ベトナムで、品種・用途・価格帯に違いがあります
- 関税制度は枠内ゼロ、枠外は700%超の高率で、実質的な輸入制限となっています
- SBS方式では調整金の仕組みがあり、価格変動リスクがあるため事前の制度理解が不可欠です
- 輸入時には植物検疫と食品衛生法に基づく届出が必須であり、農薬基準にも注意が必要です
- 個人輸入も可能ですが、自己使用目的であること、手続き面の備えが重要です
- 今後は制度変更、国際交渉、物流の不確実性に備えた柔軟かつ堅実な戦略構築が求められます
- 個人輸入は「自己使用」「100kg以下」が条件で、届出をすれば関税と納付金が免除されます
- 届出は植物検疫所または農政局で行い、検査証明書(Phytosanitary Certificate)が必須です
- 海外通販でも日本の法令に適合しなければ差し戻しや廃棄のリスクがあります
- 輸入時には植物防疫法・食品衛生法の規制がかかるため、残留農薬基準などに注意が必要です
- 輸出者の信頼性や検査体制、輸送手段も成功の鍵となります
- 違反時には20万円以下の過料が発生する可能性があります


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