タイ文字学習は難しい。その意外な理由とは
少しでもタイに興味のある人ならば、「サワディーカー」や「マイペンライ」などの有名なタイ語はご存知のことでしょう。
しかし、タイ文字となると、途端に一文字たりと読むことができない方がほとんどではないでしょうか。ある人は「ヘビのようだ」と言い、ある人は「ゾウさんの上を風が舞っている象形文字みたい」と言います。クネクネした文字に独特の発音記号が組み合わさるので、私たち日本人には大変取っ付きにくい文字であることは間違いありません。
かくいう私も、タイ文字を読むことができません。いえ、タイ文字を学習しようとはしたのですよ、独学で。ネットで検索すれば、タイ文字を指南して進ぜようという親切な記事がたくさん見つかります。私もタイ文字を読めるようになりたい、と崇高なる志を持ってトライしてみました。
ところが、それらで学び始めてみたものの、ごく初歩でつまづいてしまい、すぐに投げ出してしまったのでした。その理由は、タイ文字について書かれていた、その説明にありました。
最初にお詫びしておきます
まず初めにお詫びする必要があります。先ほど申し上げたとおり、私はタイ語の基本も基礎も知らないため、まともな解説をすることができません。
「なんだと? だったらなぜタイ文字の記事を書くのか!」
そうお叱りになる声も尤もですが、まァ聞いてつかわさい。皆さまがあまたあるタイ語学習本やブログ記事をお読みになるに先立ち、私が補足説明をすることにより、もって最初の罠に陥ることなくタイ語学習を続けてほしい。そんな落伍者からのエールであると理解していただきたいのです。
日本語の五十音表にあたるものが「コーカイ表」
私たちが幼い頃、日本語を覚えるために五十音表を眺めましたね。私は部屋の壁にそれを貼り、読んだり書いたりした遠い日の記憶があります。
日本語は、「あいうえお」の5文字が母音となります。アルファベットで書くと「AIUEO」と表記できます。
「か」以下の文字についても一文字で表すことができますが、発音は子音と母音の組み合わせから成り立っていますね、「KA」のように。
さて、タイ文字です。日本の五十音表に相当するタイ文字表を「コーカイ表」といいます。タイの幼児たちも私たちと同様に、この表を見て、発音して、タイ文字を学んでいきます。
つまり、タイ文字学習の原点であり出発点です。そして、この表で学ぶのが子音の44文字なのです。
コーカイ表の名前の由来
今ほどのイラストをご覧ください。左上にニワトリの絵と文字が描かれています。これが最初の文字である「あ」に該当し、コーカイと読むことから「コーカイ表」と呼ばれているのです。
いや、実際には、この説明はとっても不十分なのです。なぜ不十分であるのかはこのあとじっくり説明するとして、トップバッターの文字を「コーカイ」ということ、そして、大きな罠がここに潜んでいることをお知りおきください。
ほとんどの記事で肝心カナメの説明が欠落している
たとえば、あるタイ文字学習を指南するホームページには、さらっと、次のように説明されていました。
「ก にわとり kɔɔ kài」
何の説明もなくこれだけを初めて見たとき、私は次のように思いました。
なるへそ、「ก」の意味はニワトリで「コーカイ」と読むんだな。フムフム
幼児向けのコーカイ表にもニワトリの絵が描かれていますから、そのように感じてしまうのも無理はないでしょう。次に、Wikipediaのタイ文字を説明するページを参照してみましょう。
そこにある「子音、一覧」の表には、大略次のように書かれています。
1 順番 2 文字 3 名称
ก | ก ไก่ (ko kai) : コー・カイ(鶏のコー) |
この説明からは、
「ก」が1番目の文字であり、ニワトリは「コーカイ」と言い、「コー」に当たる文字が「ก」なのかな
そのように読み取れないでしょうか。つまり、私たちは「ก」を「コー」と発音できるのだと思ってしまいます。
しかし、初めに紹介した記事とウィキペディアの説明内容には、すでに違いが生じています。前者は「コーカイ」と説明し、後者は「コーカイ(鶏のコー)」と説明しています。
ナンダイ、一体どっちが正しいのだ?
試しに「ก」が使われているタイの文章を引っ張ってきてグーグル翻訳にかけてみましたが、日本語訳のどこにも「ニワトリ」が出てきません。
また、「ก」だけでは「g」としか表示されず、訳も発音も正解が出ません。私は激しく混乱しました。
こりぁ変だぞ。何かがおかしい……
私はこの謎を解き明かすべく、本格調査に着手したのでした。
◎これ絶対。コーカイ表を読む際に知っておくべきルールがあった!
詳しい調査の結果、コーカイ表で学ぶ際の絶対条件があることが分かりました。結論から言うと「ก」は「コーカイ」とも「コー」とも読むことが出来ないのです。それに、そもそもニワトリは「コーカイ」ではありません、「カイ」だったのです。
ちょっと待て! 今更ニワトリがコーカイではないとはどういうことだ?
そのカラクリを知ったとき、「どうして初めからそう説明してくれないのだ」と、強く抗議したい気持ちになりました。これから順を追ってご説明いたします。
前提① 子音文字は、単独で読むことができない
なるほど日本語でも「か」は「KA」となり、「K」だけでは読むことができませんから母音をくっつけなければなりません。
タイ文字においても、子音文字に何かをくっつけて読めるように整える必要があるのです。
前提② くっつけるのは「オー(ɔɔ)」という発音
「単独で発音できないなら、何かが必要だね。じゃあ便宜上、すべてにオーという発音をくっつけて読めるようにしようよ」との不文律が形成されていたのです。すなわち、コーカイ表にある文字は、すべて「子音文字+オー」として読む必要があるのです。
前提③ イラストの趣旨は「その子音文字が使われている代表的な名詞であって、オーをつけた発音と直接の関係はない」
ですから、ニワトリは実際には「カイ」ですが、それをコーカイ表では「コーカイ」と便宜上言うに過ぎません。すなわち、「ก」にオーをつけると「コー」。
一方、「ก」を使った文字の代表がニワトリの「カイ」。だから「コーカイ」と呼ぶのです。コーカイ表すべての子音文字についても同様のルールに則って理解する必要があります。
たとえば、27番目の文字「ป」ならば、次のように考えます。
コーカイ表が意味するのはこういうことだった! 世界一あなたに寄り添って解説
① 「ป」 + 「オー」 = 「ポー」
→あくまでも「オーを付けて発音した場合にこうなるという趣旨」
② 「ป」が使われている名詞は「魚(プラー)」
→あくまでもこの文字が使われている代表的な名詞という趣旨
★よって、27番目の文字は「①ポー・②プラー」と呼ぶ
気をつけていただきたいのは、ポーという発音と代表的な名詞のプラーは違うもの、換言すれば、ポーは魚を意味しないし、魚にポーという発音はないことです。
これが日本語なら、「か」であることを伝えたい場合「為替のか」と言うことができますが、タイ語ではこれができません。「プラーのプ」と言おうとしても「ป」が発音できないのです。
日本語では「代表的な名詞→文字」というアプローチですが、タイ語では「任意の発音→それが使われている代表的な文字」という変則的なアプローチになります。
日本人の感覚からすれば、「コーカイ表」よりむしろ「カイコー表」と覚えた方が腑に落ちやすいかもしれません。
初心者のあなたに寄り添って説明してはくれない
私が参照したサイトの筆者は、「はぁ? そんなこと当然ダロ」と考え、上記の説明を省いたのかもしれません。
しかしながら、コーカイ表のルールが「当たり前」ではない私たち初心者にとって、永久に理解は困難です。すぐに混乱の沼へとハマり、ほぼ確実にタイ文字学習は挫折してしまうことでしょう(えっ、筆者だけでしょうか?)。
総括「急がば回れ。ときにネットの情報は、あなたを成功から遠ざける」
何でもかんでも情報が瞬時に手に入る今日です。大変便利な世の中になりました。しかし、これはスゴイことであると同時に怖いことでもあります。
今回は、タイ文字学習を取り上げました。ネットの不十分な説明によって、一人のタイ文字を学びたい人間が挫折したエピソードでした。
これはタイ輸入でも同じことが言えます。ネットで情報収集するのも良いですが、あなたの損益に直結するビジネスです。それだけで本当に大丈夫でしょうか。ネットの不十分な情報を鵜呑みにしたばっかりに、とんだ大損を被った人はたくさんいます。
タイ文字学習で失敗しても金銭的な損失はありませんが、タイ仕入れではそうはいきません。やはり初心者なら、素直にプロの教えを乞うのが一番近道であり、一番安上がりであると思われます。
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