貿易業界にチャレンジしたいと思っている方が一番気になるのが英語。「英語が苦手。英会話には自信がない。」でも貿易事務をしたい!と考えている方も多いと思います。実際の貿易事務の日常業務ではどの程度の英語力が問われ、どのような場面で必要になるのでしょうか。
貿易実務と英語
企業規模による違い
貿易事務といっても業種や企業規模によって業務の内容は様々です。まずは企業規模による違いを説明していきます。
大手の場合
英語力に不安のある方でもチャレンジしやすいのが大手企業の貿易事務です。大手企業は日本人が常駐する海外拠点を設けているところがほとんどだからです。日常業務であるメールや電話などのコミュニケーション全てを日本語で進められます。英語に自信の無い方にとっては挑戦しやすい環境です。
日本語を話せる現地職員の場合、日本語がおぼつかない場合があります。そのときは、できるだけ平易ではっきりとした言葉を選ぶことが大切です。敬語や丁寧な表現は重要ではなく、短く分かりやすい日本語が必要とされます。
例えば、明日までに現地からの確認が必要な場合のメールの文例をあげてみます。
- お忙しい中大変恐縮ではございますが、明日までにご確認いただきご返信をお願い致します。貴殿からの返答をいただき次第手配を進めます。
- 明日の日本時間午前10時までに返信をください。返信が無い場合手配が進められない為、予定の本船に船積みができません。
対日本人の場合、1の文面が好まれるでしょう。しかし不必要な表現が多く、日本語が少しできる程度の現地職員にはこちらの意図が伝わりません。2のようにこちらの要望とそれに伴う結果を端的に伝える文面にします。ぶっきらぼうに聞こえるかもしれませんが、結果的に現地職員にとっては分かりやすいメールです。
中小企業の場合
英語力を求められる環境のひとつです。中小企業の場合、現地企業と代理店契約を結んでいることがほとんどです。この場合、現地企業に日本語を話せる職員がいないことから、世界公用語である英語力が求められます。しかし、日常業務のほとんどはメールでのコミュニケーションです。時差の関係から電話を使用するケースはあまりありません。
例えば、TOIECのスコアは900近くあるけれども英会話には自信が無い方や、実践で英語を使用した経験が少ない方でもチャレンジしやすい環境です。つまり読み書きの能力が問われる為、英会話の能力はそこまで必要とされません。メールでのコミュニケーションを積み重ねていくうちに、英語の文章を素早くつくる力は自然と培われてくるでしょう。
英語が必要とされる場面
貿易事務の日常業務において、どのような時にどのような英語が必要になるのでしょうか。具体例も含めてご紹介します。
書類作成、確認
紙の文化が根強く残る貿易実務の世界において、貿易事務の日常業務は書類と切っても切り離せません。国内で必要とされる一部の書類を除き、ほぼ全ての書類が英語で書かれています。英語の読み書きが苦手な方や英語アレルギーがある方にとっては、とても大きな壁です。
化学品や医療品の品名は目にしたことも無い長い英単語で書かれています。また会社名や住所、本船名やBOOKING No.など、英語ではあっても馴染みのある英単語では無い、アルファベットの羅列としか見えないような英文書類との闘いです。それらを細かくチェックし、それぞれの書類に齟齬がないかを確認します。そして、その英文書類を元に必要な書類作成をしていきます。
例えば、在インドネシア日本大使館に医薬品(高血圧症治療薬)を輸出入すると仮定した場合に登場する英単語は、次の通りです。
- Booking No. : MAER80236796
- Vessel : SVENDBORG MAERSK V.931E
- Consignee / Shipper : Japanese embassy in Jakarta Indonesia
- Address : Jl. M.H. Thamrin No.24, RT.9/RW.5, Gondangdia, Kec. Menteng, Kota Jakarta Pusat, Daerah Khusus Ibukota Jakarta 10350 Indonesia
- Commodity : Angiotensin II Receptor Blocker
書類には様々な種類があります。インボイス、パッキングリスト、シッピングアドバイスそしてBLなどです。それぞれの書類に繰り返し出てくるこれらの英単語を確認し誤りがないかチェックします。そして書類を作成していく作業、それが貿易実務業務の大部分を占めます。
メール
海外とのコミュニケーションのうち、90%以上がメールで行われます。時差の関係や、後々問題になった時の履歴を残す為です。仮に電話で意思確認が済んだとしても、その後同じ内容をメールで送りなおすことが後々のトラブルを防ぐ上でも大切です。
メールの内容はシンプルにすることが好まれます。いつどこで、何がどう動くのか。事実を簡潔に端的にそして必要なタイミングで伝えることが重要です。日本語のように遠回りな言い方や曖昧な表現は、かえってトラブルの元です。
例えば、明日までに相手の確認が必要な場合の表現で比べてみましょう。
- It would be appreciated if you could reply to us by tomorrow morning. Once we get your confirmation, we will proceed with it.
- We need your confirmation overnight. Otherwise we can’t handle this cargo.
日本的な感覚では、1のような相手に失礼のないような丁寧な表現が良いように思われます。しかし、1で相手からの返信がもらえる確率は30%程です。なぜなら、返信の重要性が相手に伝わらない為です。重要性の低いメールは後回し、放置されてしまいます。そして返信が無く、予定の便に貨物が載せられなかった場合、荷主からその責任や最悪の場合代償を求められることもあります。
2では、こちらの必要することを明示している為、返信が無かった場合でも相手に責任を求められます。海外とのコミュニケーションでは、相手を気遣う言葉よりも正確性とスピードが求められます。中学生程度の英語力と度胸があれば仕事を進める場面がほとんどです。
電話/テレビ電話
実際の所、英会話力が必要とされる電話やSkypeを含めた直接のコミュニケーションの場はどの程度あるでしょうか。
欧米諸国との時差は8~14時間。日本の昼間は相手国の深夜。日本の夜にやっと相手国の営業が始まります。その為直接対話の場は近隣のアジア諸国が多くを占めます。つまり、相手は中国や韓国のようなノンネイティブや、ネイティブではあってもインドやシンガポールなどの訛りのある英語です。
電話等でのコミュニケーションが必要とされるのは緊急を要する事態やトラブル案件の場合が多くを占めます。緊急事態で一刻も早い決断が迫られる場面で、訛りの強い早口の英語に顔の見えない電話で対応する。その背景には数百万、数千万円の貨物に対する責任を負っています。
そういった場面に遭遇することは一年に一度あるかないかですので安心してください。必要に迫られた際に窮地に陥らないようにする為にも、日ごろから英会話の練習をすることは大切です。
日常業務と英語
今までご紹介したように貿易実務の日常業務では読み書きの能力が求められ、英会話のスキルはあまり必要とされません。英語に自信の無い方や実践の経験が少ない方にとっては挑戦しやすい仕事です。逆に英会話が得意で英語のスキルを最大限に生かしたいと思っている人にとっては物足りないと感じるかもしれません。直接対話の機会は想像以上に少ないのが現実です。
将来のスキルアップやキャリア形成を考えるにあたり、これらの事を念頭に置いてください。理想と現実の乖離が少ない、自身の力を最大限に発揮できる職場環境と出会えるでしょう。
まとめ
- 大手では対海外拠点の対応がほとんど。英語の心配はほとんど無し。
- 中小企業は英語力必須。特に読み書きのスキルが重要。
- メールでは正確、簡潔、迅速な対応がポイント。
- 電話は緊急事態がほとんど。いつかに備えた日ごろの準備を忘れずに。
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