この記事では、日米自由貿易協定の基礎知識をご紹介していきます。(2020年1月1日発効)関連記事:【日米貿易協定】貿易ビジネスで活用する基本知識
日米自由貿易協定
自由貿易は、お互いの国内市場を開放して、自由な経済活動を進める仕組みです。ここでいう「開放」には、関税等の引き下げの他、次の物が自由化されることを示します。「関税」ばかりがクローズアップされますが、実際は、それよりも広い範囲で自由化が行われる予定です。
- 2019年現在:物品限定の協定
- 2020年以降:追加交渉により、物品以外に拡大予定(FTA化)
- 関税
- 関税以外の規制(非関税障壁)
- 通関の仕組み
- ビジネスマンの交流条件
- ビザの条件
追記!日米貿易協定による関税削減内容
日米貿易協定により関税が大きく削減される品目は、次の通りです。
日本への輸入品 | アメリカへの輸入品 | |
関税を撤廃又は削減する物 | 牛肉、豚肉、ワイン、オレンジ | 燃料電池、酒類、楽器類、しょうゆなどの調味料、菓子類 |
除外品目 | 米、水産物など | 自動車、自動車部品 |
関税の削減は、発効と同時に即時撤廃される「EIF=即時撤廃」の他、発効後、数年にわたり削減される物(B16など=発効後16年目に撤廃)などがあります。これらは、品目ごとに細かく決められており、日米両政府が合意する「譲許表」に基づき行われます。上記の品目は一例の中の一例であり、あらゆる品目に対して、広く関税が削減されます。さらに詳しい品目や削減予定を知りたい方は「譲許表」または「USTR(アメリカ側の発表)」記事をご覧下さい。
今後、税関による説明会の実施、原産地規則ポータルやウェブタリフ、ワールドタリフにも日米物品協定の内容が反映される予定です。ちなみに、日米物品協定は、海外通販にも適用されます。その場合の注意事項などは「日米貿易協定を海外通販に適用する方法」をご覧ください。
関税ある・なしと輸入量の関係
日本とアメリカは、経済連携協定(自由貿易協定)を結んでいないため、お互いの製品には関税がかかります。
例えば、冷凍牛肉を考えてみましょう!冷凍牛肉の一つに「0202.30-010」のHSコードに該当するお肉があります。(冷凍×骨がない×ロイン)この製品に対する日本への輸入状況を調べた物が以下の表です。対日輸出が多いのは、オーストラリア、アメリカ、カナダ、メキシコ、ニュージーランドです。ご覧の通り、オーストラリアとアメリカ産牛肉が競り合っています。
数量ベース(2018年度の一年間 KG) | 単価 | |
オーストラリア | 125511733 | ¥408 |
アメリカ合衆国 | 101641772 | ¥438 |
カナダ | 14659306 | ¥399 |
メキシコ | 8671500 | ¥453 |
ニュージーランド | 2657838 | ¥578 |
アメリカとオーストラリア産の関税率の差は?
以下の表をご覧ください。こちらは、0202.30-010に対する日本の輸入関税率です。対象商品の上位輸出国と日本は、アメリカ以外とすべて自由貿易を結んでいます。
例えば、オーストラリアは、日オーストラリアEPAとTPP11の2つの自由貿易を結んでいるため、アメリカ製品が38.5%の関税率がかかる一方、オーストラリア製品は、26.6%の関税率(2019年5月現在)が適用されて、オーストラリア製品は、関税上10%以上も有利な状態で日本に輸入できます。
アメリカが日本に自由貿易を求める理由 関税差による影響は?
では、オーストラリアの牛肉とアメリカの牛肉に対する関税率の差は、どのように影響するのかを計算してみましょう!
例えば、価格がともに100万円分の牛肉を日本に輸入するとします。原産国は、オーストラリアとアメリカです。この場合は、次のように関税が決まります。
計算式(2019年8月現在) | 関税額 | |
アメリカ産 | 100万円×38.5% | 385000円 |
オーストラリア産 | 100万円×26.6% | 266000円 |
アメリカ産とオーストラリア産の牛肉は、日本に輸入される時点で約12万円の関税差があります。関税上は、オーストラリア産の牛肉が圧倒的に有利な状況に立たされているのです。オーストラリア産の「26.6%」は、2019年時点の数字であり、今後も年々と下がることが約束されています。もちろん、このような不利な状況をアメリカの産業界が黙っているはずがありません。
政治家は、有権者、特にお金がある産業界の声を無視するわけにはいきません。これはアメリカでも同じです。もし、ライバル国である国と、圧倒的な関税差が生まれている状況、かつ、その関税差が様々な分野に広がっているとすると、アメリカとしては、非常に深刻です。だからこそ、アメリカ側から日本に対して、日米自由貿易の締結を強力に要求されているのです。
日米自由貿易協定の三つのポイント・メリットとデメリット
では、日本の立場としてアメリカと自由貿易を結ぶのは良いことなのでしょうか? メリットとデメリットを確認していきましょう!
三つのポイント
- 農産品は、TPP11よりも関税の引き下げなどが凍結されている。(米、砂糖など)
- 自動車関連の交渉は継続される。
- 232条の追加関税は凍結される。
メリット
- 世界最大規模の市場にアクセスが簡単になる。
- 韓国経由の輸出を減らせる。
- NAFTA(北米自由貿易協定)にこだわらなくてもよい。
例えば、個人レベルで言うと、アメリカにある各種通販サイト(アマゾン等)で商品を購入したときに、日本側で関税がかからなくなります。もし、アメリカをビジネスの場として考えている場合は、アメリカ市場に関税無しでアクセスができるようになり、売上の拡大を見込めます。これは、日本→アメリカだけではなく、次のように第三国を経由した輸出スキームもできます。
例えば、日ベトナムEPAで副資材をベトナムに輸出。そこで最終加工製品に仕上げて、再度、日本に輸入。このときの貿易は、日アセアン又は日ベトナム協定を使うことで、日本、ベトナムの双方に関税等がかかりません。そして、日本に輸入後、最終加工をしてアメリカに輸出するときは、日米貿易協定を適用して輸出するなどです。このように三か国や四か国を経由させた後、最終消費地であるアメリカへの輸出も考えられます。
デメリット
- TPP11など多国間協定でアメリカと自由貿易が難しくなる。
- TPP11で凍結された分野が復活する可能性がある。
- 協定発効後の見直しなど、アメリカと直接交渉する必要がある。
日米自由貿易協定の締結は、世界最大の市場へのアクセスが容易になる点が最大のメリットです。別に自動車や牛肉など、ある特定の産業等にメリットがあるわけではなく、すべての分野で輸出チャンスが生まれると考えても良いです。ただし、アメリカと二国間の自由貿易を結ぶデメリットも多いです。
デメリット1.TPP11など多国間でのメリットが薄れる。
日本主導で結ばれたTPP11は、将来的には、アメリカが復活する前提でまとまった側面も大きいです。そして、この主導的な立場である日本がアメリカと自由貿易を結ぶとなると、もはやアメリカがTPP11に復活する可能性は非常に低いです。これは、現TPP加盟国にも、新たにTPPに入ろうとしいた国にとってもマイナスです。
日本がアメリカと二国間協定を結ぶ=TPPの存在意義が薄くなる=多国間のスケールメリットが生まれない。
デメリット2.TPP11で凍結した分野が復活する可能性がある。
アメリカは、TPP11で凍結した以下の22項目を復活させる可能性が高いです。これらは、TPPの議論をするときに、アメリカの強力な要求により加えられた項目です。よって、アメリカの革新的な利益につながっている可能性が高く、まさにこれがトランプ大統領が主張する「非関税障壁」の分野です。(2019年現在は物品限定の協定)
•急送少額貨物
•ISDS(投資許可、投資合意)関連規定
•急送便附属書
•金融サービス最低基準待遇関連規定
•電気通信紛争解決•政府調達(参加条件)
•政府調達(追加的交渉)
•保存及び貿易
•医薬品・医療機器に関する透明性
•知的財産の内国民待遇
•特許対象事項
•審査遅延に基づく特許期間延長
•医薬承認審査に基づく特許期間延長
•一般医薬品データ保護
•生物製剤データ保護
•著作権等の保護期間
•技術的保護手段
•権利管理情報
•衛星・ケーブル信号の保護
•インターネット・サービス・プロバイダ
•マレーシア(国有企業:ペトロナス)
•ブルネイ(投資サービス:石炭産業引用元:経済産業省の資料
デメリット3.発効後の見直しでも直接交渉する必要がある。
自由貿易協定は、アメリカと様々な議論を重ねた結果、合意に至ります。その後、日本とアメリカの国会で「この協定を国として受け入れるのか?=批准」が議論されます。議論の結果、国会で認められると、正式に「批准」規定の日数の経過後「発効」にいたります。これが自由貿易が始まるまでのプロセスです。ここで質問です。
協定が発効に至ったときの内容は、一生同じなのでしょうか? それとも変わるのでしょうか?
実は、これまでのEPAを含めて、協定の内容は、永久保存版ではありません。経済状態や各国の事情などにより、随時見直されることになっています。
例えば、TPP11の場合は、協定本章の「二十七章 二十七条」の部分で以下の通り規定しています。委員会により改正や修正の検討ができると規定されていますね!
第二十七・二条委員会の任務1委員会は、次のことを行う。
(a)この協定の効力発生の日から三年以内に、及びその後は少なくとも五年ごとに、締約国間の経済上の関係及び連携を見直すこと。
(b)この協定の改正又は修正の提案を検討すること引用:TPP協定書
つまり、この規定をうまく利用することにより…..
- 協定が発効するまでは、国内的な世論の反発を最小限にするために、譲歩を最小限にする。
- 発効後、世間の関心が薄れた頃に締約国との間で話し合いをして発効前以上の譲歩をする
という少しだまし的なテクニックを使う可能性が高いです。(日本とアメリカと裏側で調整など)また、アメリカ側の政治的な都合により、日本とアメリカとの間で、さらなる譲歩を迫られる可能性があることも大きなデメリットです。このアメリカによる再交渉の対象になったのがカナダとメキシコのNAFTA、お隣の韓国が結んでいる「米韓FTA」です。これらの協定は、アメリカとの間で発効後、問答無用に再交渉の対象にされているのです。
まとめ
- アメリカは、対日関税面で不利な状況に立たされている。
- この状況をアメリカの産業界が黙っているわけがない。
- アメリカと自由貿易を結ぶときは、締結されている22項目の「非関税障壁」が復活する可能性が高い


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