一般的に外国から到着した貨物は、税関の輸入許可を受けてから搬出されます。外国貨物は許可を受けた後「内国貨物」に変化して、自由に引き取れます。しかし、輸入する商品によっては、必ずしも許可を受けてから搬出することが適切でない貨物があります。
例えば「肉輸入マニュアル」でもお伝えした肉類の輸入については、税関の許可を受けるにあたり、動物検疫所と食品検疫所の「確認」を受けなければなりません。この確認を受けるには、動物検疫所と食品検疫所の検査が必要です。そして、この検査を受けるための条件として、港の近くにある「冷蔵施設の中に入れなければなりません」
税関の許可は、動物検疫所と食品検疫所の確認後に出されるため、税関の許可を受けるに「冷蔵施設」に移動させる必要があります。
基本的に税関の許可を受けずに貨物を引き出すことはできません。しかし、正当な理由がある場合は、税関から適切な承認を受けた後に、外国貨物のまま運送することが認められています。これを「保税運送の承認(ほぜいうんそうのしょうにん)」と言います。この承認を受けることで、外国貨物のまま保税倉庫(冷蔵庫など)に搬入ができます。つまり、動物検査などを受ける準備が整うことになります。
この記事では通関業者を通さずに、自社で保税運送の承認を受けるための申告書の書き方、手続き方法、注意点などをご紹介します。
自分でもできる保税運送の承認手続き
港へ着いた貨物を外国貨物のまま引き取ることを「保税」と言います。保税とは「外国貨物に由来する税金(関税や消費税)」などが支払われていない状態のことです。したがって、この保税状態の物をどこかに転売することはできませんし、貨物がどこに保管されているのかなどを含めて、税関に管理されることになります。内国貨物(日本で自由に販売できる商品)ではないため、その取扱いには十分に注意が必要です。勝手に持ち出しをすると「関税法違反」で処罰の対象になります。
なぜ、保税するのか?レーシングカーの秘密
三重県の鈴鹿市には、国内で最も有名な「鈴鹿サーキット」があります。イベントなどが行わるときは、各周辺部から大渋滞になることで有名です。実は、このサーキットで走っているレーシングカーと保税には、関係があります。その関係を知ることで保税状態にすることのメリットがわかります。
先ほども述べた通り、保税とは外国貨物であっても「関税や消費税」を支払わずに、引き取ることを言います。この関税や消費税は、商品の価格に対して発生します。一般的にレーシングカーは高額な商品であるため、それに対する関税や消費税は、おのずと大きくなります。そのため、日本で行われる大会に参加するためだけに「輸入」する形をとるわけにはいきません。
実際、外国のレーシングカーは、日本で行われる大会に参加するために持ち込まれるだけです。日常的に日本で使う予定がない貨物に対して関税をかけるのは問題ですね。そこで、このようなレーシングカーは「保税措置」を取って、外国貨物のままサーキット場で使うようにしています。そして、大会が終わり次第、外国へ送り返して、日本側において高額な関税がかからないようにしています。これが一つ目のメリットです。
2つめのメリットは、商品の売れ方によって輸入の調整性ができる点です。これは、日本で支払うべき「関税や消費税の調整をすること」にもなります。日本へ外国貨物を輸入するときは、貨物ごとに決められた関税や消費税を支払います。この支払いを行うことによって、自由に国内販売ができます。しかし、関税と消費税の支払いとは別として、輸入した貨物の「売れ行きなど」も考えなければなりません。
もし、外国から到着した「全ての貨物に対して」輸入許可を受けてしまうと、まだ売れるかどうかわからない商品を含めて、関税や消費税を支払わなければなりませんね。そこで、これを避けるために保税運送の承認を取り付けて、外国貨物のまま保管するようにしています。
外国貨物として保管していれば、国内販売の売れ行きをみて、適宜、輸入許可を受けて持ち出せます。最悪、国内での販売が難しい場合は、全量を「積み戻す(外国へ返送すること)」ことによって「売れなかった分の商品」に対する関税や消費税を支払わなくてもよくなります。
保税運送の2つの注意点
保税倉庫とは、税関から許可を受けた「外国貨物を保管できる場所」のことです。港近くに立地している多くの倉庫は、この許可を受けています。港へ到着したコンテナなどをこれらの倉庫へ入れるためには、税関から「保税運送の承認」を受けます。これによって、外国貨物のまま倉庫への移動ができます。この保税運送の承認を受けるときは、一つ大きな注意点があります。それが「税関検査」です。
税関検査といえば、輸入申告をしたときに受けるものだと考えがちです。しかし、税関検査は保税運送のときも行われる可能性があります。特に輸入実績がない方、保税運送の承認が初めての方は、その可能性が高いため、あらかじめ「税関検査がある」前提で費用などを計算していく必要があります。また、保税運送をするときに忘れてはならないことがあります。それが「D/O(デリバリーオーダー)」の手配です。
デリバリーオーダーとは、コンテナのターミナルから引き取るときに必要になる書類です。この書類がないと、税関から保税運送の承認を受けたとしてもターミナルからコンテナを引き取ることができないため十分にご注意ください。保税運送をするときは、保全運送の承認申請書と、D/Oの2つの書類が必要です。詳しくは「D/Oとは何か?」をご覧ください。
保税運送で必要になる費用(申請料)
保税運送の承認自体には、費用は発生しません。しかし、通関業者に頼んでいる場合は「保税申請費用」などの名目によって、一件当たり5000円ほどの費用がかかります。しかし、この記事で想定しているのは「自分で申請をする人」であるため、通関業者に支払う部分のお金は不要です。あなたが保税運送をするにあたり、支払う必要は「倉庫までのトラック代金(ドレージ代金)」です。
例えば、コンテナが保管されている港(ヤード)から、保税倉庫までを保税運送するときは、トラック会社(ドレージ)に●●港から倉庫までの「ショートドレー」を依頼します。おそらく、港近くであるため「ラウンド10」や「ラウンド20」と呼ばれる範囲の料金がかかるはずです。保税運送の費用といのは、このトラック代金のみのことです。
しかし、先ほども述べた通り、保税運送の申請をしたときに「税関検査」に該当するときがあります。そのときは、この配送が「港から倉庫」への直送から、「港→税関検査場→保税倉庫」のルートになるため、その分だけトラック会社から、余分に請求されるということです。決して税関検査自体に費用が掛かるのではなく、税関検査を受けるためのコンテナの移動などに費用がかかるということです。
その他、こんな費用も注意!個人で保税運送する場合に必要になる担保
個人で保税運送をするためには「担保」の提供が必要です。具体的には、法務局などに「関税や消費税に相当する額」の担保を提供します。もし、通関業者へ依頼する場合であれば、この担保は提供する必要はありません。必要な申請書類は「税関様式:C-1090」です。
申請者(一般的には通関業者が行います)
保税運送の承認を受けることができるのは、貨物の輸入者か、輸入者の代理人である通関業者です。ここでは、輸入者であるあなたが「保税運送の承認」を受ける前提で、その手続き寳保をご紹介していきます。
まずは、申請書類の入手です。保税運送の申請書は「外国貨物運送申告書(目録兼用)(C-4000)」です。こちらのワードファイルをダウンロードして必要事項を記入しましょう。この保税運送の承認申請書を提出するのは「コンテナが保管されているヤードを管理する税関」です。
例えば、名古屋港周辺地区であれば5つのターミナル(飛島ふ頭南、飛島ふ頭北、NCB、鍋田ふ頭、飛島ふ頭南側)が存在します。東京、大阪、横浜、神戸などの大きな港も同じようにいくつかのターミナルが存在するため、管轄する税関も細かく分かれています。保税運送の承認申請書を出す税関は、コンテナが保管されるターミナルを管轄するところになります。
具体的にはどのように探せばいいの?
コンテナが保管されるターミナルと聞いてもピンときませんね。港というのは、航路や船会社によってターミナルが細かく指定されています。そのため、まずはB/L(船荷証券)を参考にして、「コンテナを運んでいる船会社」を特定します。次に、その船会社のコンテナは「〇〇港のどこのターミナルに搬入されるのか」を確認してください。おそらく、書類内のどこかに蔵置場所が記載されているはずです。
次にそのターミナルの所在地(住所)を確認します。この住所と管轄する税関地域の住所を重ね合わせると、担当する税関官署がわかります。
名古屋地区であればNUCT(Nabeta United Container Terminal)と呼ばれるターミナルがあります。ここは主に中国船が入港するターミナルになっていて、ここを管理するのが「名古屋税関西部出張所」になります。NUCTに搬入されるコンテナの場合は、名古屋税関西部出張所に保税運送の申請書を提出してください。
保税運送申告書(税関様式:C4000)の書き方
- コンテナが蔵置されている税関の名前です。(これが出発地の税関)
- コンテナターミナルの名前を記入します。(一例:NCBなど)
- 保税運送を開始する年月日
- 倉庫に入庫する年月日(基本は不要です。三カ月以上、蔵置する場合に必要です。)
- 貨物の原産地記入します。
- 動物検査のためなど
- 自動車
- 受け入れ倉庫の名前
- 積んできた本船名
- 本船の名前
- 保税運送を申告する年月日
- 運送期間を設定します。多くは一週間前後に指定する場合が多いです。
- 貨物に記号や番号があれば記入(任意)
- インボイスと同じ品名を記載します。
- カートンであれば、何カートンなのかを記載します。
- ここには重量を記載します。
- 基本的にインボイス価格です。ただし、発送先が工場の場合は注意します。
- B/L(船荷証券)に記載されている11桁程の番号
- コンテナを無断で開けられないようにするロックキーです。これらに振られている番号を書きます。
実務上の保税運送の流れ(フロー)
では、これまでの内容をふまえてコンテナ到着から、保税倉庫に入れるまでの手順を通して説明します。
1.アライバルノーティスが到着したら「D/O」の手続きを済ませます。
2.保税運送をするための申告書を作成します。
保税運送の申告書は3部です。税関控え用、輸入者控え用、託送用(運送会社に渡す書類)です。
3.2で作成した申告書をコンテナが蔵置されている税関へ提出します。
一通が託送用の書類になります。この書類と1番のD/Oをトラック会社(ドレー会社)へ渡します。
4.税関検査を受ける(申請時に決まった場合)
税関検査が決まった場合は、倉庫に入れる前に税関検査を受けます。立ち合いが必要です。
5.検査に合格後、倉庫に搬入される。このとき、倉庫会社の方に、託送書類の「リマーク部分」と「蔵主部分」に印を押してもらう。
6.倉庫会社の押印済の託送書類を到着地を管轄する税関(倉庫所在地の税関)へ提出します。このとき、税関の印を押してもらいます。
7.6の到着地の税関が押印した託送書類を「出発した所を管轄する税関」へ提出する。
8.保税運送の完了(担保解除)
関連記事:保税地域とは?
保税運送のまとめ
保税運送は、外国貨物のまま指定の地域へ輸送するための方法です。これまでの説明でもわかる通り、この手続きは非常にややこしくて複雑であるため、基本的には通関業者に任せるべきです。どうしても自分で行いたい場合は、ご紹介した内容を参考にして手続きを進めてください。おそらく、この手続きを完了させるだけでも多くの労力が発生するため、かける手間と時間を考えて慎重に判断する必要があります。
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