Port Omission(寄港省略)のリスクと対応策を解説
船が予定していた港に寄港せずに通過する「Port Omission(寄港省略)」という事態に直面することがあります。これは荷主にとって納期の遅れや追加費用の発生につながります。
この記事では、Port Omissionの基本、発生要因、発生しやすい特異点、荷主がとるべき対策について詳しく解説します。
Port Omissionとは何か?
Port Omissionとは、船会社がスケジュール上予定していた港への寄港を取りやめることです。その背景には、さまざまな要因があります。
- 港湾混雑を避けるため
- スケジュール遅延を最小限に抑えるため
- 燃料費削減のため
- 船腹供給を調整するため
- 天候リスク(台風、モンスーン、ハリケーン、冬季の荒天)
- 地政学リスク(紅海危機、スエズ運河閉鎖リスク)
- 港湾側の制約(入港バース不足、港湾労働者スト、税関検査強化による遅延)

つまり、船会社側の経営判断や運航効率、外部要因によって寄港省略がなされます。
発生しやすい特異点
寄港省略はどこでも起こり得ますが、特に次の航路や状況で発生しやすい傾向があります。
航路別
- アジア発北米航路:米西岸のロサンゼルスやロングビーチなどで混雑時に省略される
- アジア発欧州航路:ロッテルダム、ハンブルクなどの主要港で頻発。
- アジア域内フィーダー航路:小規模港が飛ばされやすい。
会社別
- アライアンス所属キャリア(MSC、Maersk、CMA CGMなど):共同配船をしているため、他船でカバーできる場合に寄港省略を実施しやすい。
- スケジュール重視型キャリア(Maersk、Hapag-Lloydなど):定時性確保のため省略を選ぶ傾向。
時期・要因
- ピークシーズン(7〜10月):輸送需要が集中し、混雑による省略が増える。
- 労使交渉やストライキ期:欧州や米西岸では特に注意が必要。
- 燃料費高騰時:コスト削減目的で寄港が飛ばされることがある。
- 悪天候や地政学的リスク発生時:緊急回避として寄港を飛ばす例がある。
Port Omissionが貿易実務に与える影響
寄港省略は荷主にとって大きなリスクをもたらします。
- 貨物到着の遅延
- 他港での荷揚げによる追加費用(内航船や陸送)
- 港湾保管料やD/O費用の追加発生
- 契約履行遅延によるペナルティリスク
- フォワーダー経由契約の場合の責任(誰が費用を負担するかは契約条件に左右される)
- 後続工程(工場稼働・販売計画)の停滞リスク
荷主がとるべき事前対策
Port Omissionは完全に防げませんが、事前に備えることで影響を小さくできます。
- 契約時にB/L条項を確認し、寄港省略時の扱いを理解しておく
- フォワーダーと代替輸送の優先手配について事前合意
- 海上貨物保険の特約やDelay in Start-Up保険を検討
- 貿易信用保険による間接損害の補填スキームを検討
- 納期に余裕を持った輸送計画を立てる
- 複数キャリアや航路を利用してリスク分散
Port Omission発生時の対応
Port Omissionが発生した場合は、以下の対応方法があります。
- 船会社・フォワーダーへすぐに確認する
- 代替港で荷揚げされた場合は陸送や内航船による輸送を検討
- 追加費用負担の分担について交渉
- 顧客や取引先へ納期の変更を速やかに伝達
- 複数港到着の可能性を考慮して通関計画を調整
- 緊急時にはチャーター便や鉄道輸送(中国〜欧州間のブロックトレインなど)
- 複数B/Lを組み合わせた分散輸送の事例を参考にする
実際に起きた Port Omission の事例(一次情報ベース)
1. Maersk による Savannah港の省略(2021年)
2021年12月、MaerskはTP23サービスでサバンナ港への寄港を一時的に省略。代替としてTP17便ではニューアーク港寄港を省き、貨物はTP23へ振替えました(Maersk社アドバイザリー)。
2. Yantian港の流動制限による省略(2021年)
中国・塩田港でのCOVID‑19による生産性の低下に伴い、Maerskは11航次にわたり同港を飛ばす対応。世界的なサプライチェーン混乱を招きました(gCaptain)。
3. ケープタウン港の深刻な混雑(2025年)
2025年初、ケープタウン港は最大10日以上の平均待機時間が発生。Maerskなど大手は寄港中止や迂回、代替港へのルートシフトを実施しました(Portcast)。
4. 荷主も予期しないルート変更(Unplanned Transshipment)
混雑や悪天候による「予期せぬ寄港省略」が原因で荷物が別の港に降ろされるケースが多発し、84%の貨物で遅延、平均約8日間の到着遅れが確認されています(Wakeo)。
海上輸送における寄港省略リスクへの対応
Port Omission(寄港省略)は、海上輸送において避けて通れないリスクです。「予期しないトラブル」として捉えるのではなく、国際物流の重要な経営リスクとして管理しましょう。
フォワーダーとの密な連携を心がける
実務担当者にとって大切なのは、船会社やフォワーダーとの密な連携です。コミュニケーションを心がけることで、寄港省略の可能性を早期に把握し、適切な対応を取れます。
海上貨物保険の補償対象外である点に注意
契約条件や貨物保険の補償範囲についても、事前に確認しておくことが重要です。一般的な海上貨物保険では、寄港省略による遅延損害は補償されないケースが多いため、この点も十分に留意すると良いでしょう。
納期に余裕を持たせる=リスクヘッジの一つ
輸送計画を立てる際には、納期に余裕を持たせることも効果的な対策の一つです。複数の航路を活用してリスクを分散させたり、寄港省略が発生した場合の代替輸送手段を事前に検討しておくことで、スムーズな対応が可能になります。また、通関計画についても柔軟に調整できる体制を整えておくことが大切です。
寄港省略は頻発している事実を認識する
現代の海上輸送において、寄港省略は日常的に発生し得るリスクとして認識すべき事象です。実務的な備えを怠らないことが、貿易ビジネスの安定した運営に直接つながります。
3つの要素を一体的に管理し対応する
寄港省略のリスク管理を効果的に行うためには、「事前の予防対策」「契約・保険の見直し」「発生時の迅速な対応」という三つの要素を一体的に実践することが重要です。
リスクを目に見える形で把握し、適切に分散させることで、貿易実務担当者にとって大きな価値を生み出すことができるでしょう。
まとめ
- Port Omissionは港湾混雑やスケジュール調整、天候・地政学リスクなどで発生する寄港省略
- アジア発北米・欧州航路、アライアンス所属キャリアなどで起きやすい
- 荷主には納期遅延、追加費用、後続工程停滞といったリスクがある
- 事前の契約確認、保険の利用、計画の工夫で影響を軽減できる
- 発生時は代替輸送や緊急対応を迅速に行うことがカギ