日本人旅行者を狙う、薄汚い詐欺師に注意せよ
あなたは意気揚々とバンコクの地に降り立ち、仕入れ市場を駆け回ります。その結果、非常に良い仕入れができました。気分を良くし、フラっと立ち寄った観光スポットにおいて、あなたに見知らぬ影が近づきます。
「ニホンジン、デスカ?」
ニコニコとフレンドリーに話しかけてきた男。人の良いあなたは、カタコトの日本語を話すその男に頬を緩め、思わず警戒心ゼロで接してしまいます。
その結果……
詐欺師であるその男にマンマと現金を詐取されたあなたは、こんちくしょうと毒づきながら、苦々しくヤケ酒をあおっていることでしょう。
日本大使館はもとより、各種ガイドブックが口を酸っぱくするほど注意喚起してはいるものの、日本人旅行者の詐欺被害は一向に無くなりません。
うむ、同胞の被害に黙ってはいられません。
そこで今回は、筆者が実際に遭遇した詐欺師たちの生態ファイルをまとめ、皆様の被害回避にお役立ていただくべく現地ルポをお届けします。
詐欺師ファイル1 「日本円見せて詐欺カップル」
小腹が空いたため、コンビニで食料調達をしようと買い物していた時のこと、背後からアラブ系の男に声かけされる。
- ⚠️詐欺師出没ポイントおよび時間帯:スクンビットのコンビニ。20時頃
- ⚠️詐欺師の風貌:アラブ系20代後半のカップル
「ハロー。アナタ、ニホンジン? ワオ。僕タチ、来月、オーサカ、行キマス」
と、一方的に話しかけてきた。コンビニの店内で見かけた日本人に、突然オーサカに行くなどと話しかけてくる中近東の男。こんなシーンでは、多くの人は戸惑うはずだ。
この男はまた、何やらモゴモゴと手を動かし続けていた。その手元を見ると、USドルの札束(偽札)を弄んでいる。
ほら見て。僕ちゃん、こんなにお金を持っているんだよ、注目チューモク!
札束をチラ見させることで、ミーはリッチマンだヨ、金を盗み取るような男ジャナイヨ。そんなことを印象付けたかったのだろう。
私はこの時点で、日本紙幣を見せてと財布からお金を出させ、まるでマジシャンのように札を盗み取る手口であることを悟ったのだが、しばらく泳がせることにした。
必死の懇願にも拘らず、私が財布に手をかけなかったことにイラついたのか、奴の口調は次第にエスカレートする。
「早ク、見セテ、オ金ダヨ。マニー、マニー」
身振り手振りで私から金を出させようとする。気の弱い日本人なら、奴の勢いに押されて財布を取り出してしまったことだろう。
「NO! 痴れ者めッ」
大喝一声。山下大将の魂が乗り移った私の声が店内に響いた。厳然たる態度で臨むと、男は見張り役の女とアイコンタクトをとった。女は、「ダメね。次いくわよ」と首を小刻みに横に振っていた。奴らは尻尾を巻いて店を出ていったのであった。
詐欺師ファイル2 「宮迫デス。ものまね詐欺師」
バンコクからわずか1時間強。世界遺産の古都、アユタヤ。詐欺師といえば観光地に現れるのが定番だが、まさかアユタヤに奇妙な詐欺師が現れるとは意表をつかれた思いだった。
- ⚠️詐欺師出没ポイントおよび時間帯:アユタヤのワット・ロカヤスタ。14時頃
- ⚠️詐欺師の風貌:便所サンダルを履き、いかにも地元民といった風情のタイ人オヤジ
メルカトル図法で描かれた世界地図の上、対決の地へと飛行機のイラストが音を立てて飛んでいく。
🇹🇭THAILAND ✈️ゴーーー
そう、涅槃仏が横臥する、まさにあのストⅡサガットステージのモデルとなった現場において、前代未聞の詐欺師が現れたのであった。
このオヤジは非常に日本語がうまく、カタコト感がなかった。多くの詐欺師がハローと声かけしてくる中にあって、この親父はとんでもないやり方で登場したのである。
なんと、宮迫博之のモノマネをしながら私の行手を阻んできたのだ。これ以上ないほど「掴みはOK」なのであった。その掴みとは、あの訳のわからない手つきをしながら「宮迫です」と登場するアレだ。
オヤジは一通り笑いを誘って私の気を惹いた後、手にした日本国硬貨を私に呈示し、これをタイバーツに両替しろ、と太々しいことを宣ったのである。
オヤジがモノマネから小銭詐欺に着手するまでのタイムは、わずか0.05秒に過ぎない。では、オヤジの詐欺プロセスをもう一度見てみよう。
詐欺オヤジ「宮迫デス、ハイッ。ちょっとこれ見て、日本のコインでしょ? 私が持っていても仕方ないから、日本人のアナタに両替してもらいたい。ねッ、イイでしょ」
みれば、確かに本物の日本国硬貨であった。一円に始まり、五円、十円、百円玉。総額で数百円ほどだっただろうか。これらを500バーツと交換しろというのだから暴利も甚だしいレートである。
私「おっちゃん、これ偽物や。日本のコインと違うもんで」
シュンとする親父をやり過ごし、しばらく辺りを散策したところでカラクリ見たり。このオヤジは、日本人がお賽銭として置いていったコインを盗み集めては訪れた日本人に対し、暴利のレートで両替を強要していたものと推認された。小銭だけでは両替に不便だし手数料もかかる。しかし、この方法なら、拾った金の数倍のタイバーツへと変換することができる。
タイ人が宮迫のモノマネをして日本人の興味を惹く。このオヤジの魔空空間に引き摺り込まれると、奴の詐欺能力は通常の3倍にパワーアップしてしまうため要注意だ。
このような詐欺師に遭遇した場合には、無視し続ける、はっきりと断るなど、ダイナミックに一刀両断していただきたい。
詐欺師ファイル3 「HONDAへ出張に行きます詐欺」
これは最近の出来事でもあり、今後も出没が懸念される。特にご注意願いたい。
- ⚠️詐欺師出没ポイントおよび時間帯:セントラルワールド。16時頃
- ⚠️詐欺師の風貌:50代後半のアラブ系オヤジ
バンコクで一二を争う巨大な売り場面積を持つセントラルワールド。店内をアチコチ歩き回り、しばし休憩と店内備え付けの椅子に腰を下ろしていた時のこと。突然、隣から声掛けされたのである。
「オー! アナタ、ニホンジン? コンニチハ!」
努めて明るく挨拶してきたオヤジの顔を見ると、やはり出ましたアラブ系。ニヤつきながら近づいてきたその風貌で、一見して詐欺師だと分かる。どんな手口を使うのか興味が湧いたため、少しだけ付き合うことにした。
「コレミテ、クダサイ」
アラブ系が差し出したのはオヤジの使い古した手帳。その中には、世界のHONDAの社名と日本人の名前が書かれたニセ名刺があった。なんでも、このHONDAの社員とは以前から友人関係であり、サウジアラビア人かつビジネスマンでもある自分は、近々出張のため日本へ赴くのだとプレゼンしてきたのである。
つまりオヤジは、自分が日本に馴染み深い人間であり、 “安心安全” な紳士であると印象付ける策略を用いてきたのである。しかし、安心安全という言葉を聞くたびに「嘘つけ!」という白々しさを感ずるように、このオヤジの演技も胡散臭さマックスなのであった。
その時、私は溜まった疲労とも相まって、虫の居所が悪かった。よって、オヤジの試技が完了する前に、我慢しきれず言ってはいけないことを口走ってしまったのである。
「待てまてマテ。詐欺るのかオイ。お前がペテン師だってことは分かってんだぞ、アーン」
するとオヤジは、平静を装いつつも即座に手帳を胸元にしまいこみ、そそくさとエスカレーターを上って逃げて行った。私はオヤジに、キラーの視線を与え続けた。オヤジは「失敗したか」という表情を浮かべつつ、私をずっと見つめていた。
総括「そいつは詐欺師だ! いきなり話しかけてくる奴なぞいない」
以上紹介したケース以外にも、「王宮は休みだから別の場所に連れて行ってあげる詐欺」などもあります。しかしいずれのケースでも共通しているのは、「相手からこちらに突如として話しかけてくる」ということです。
考えてもみてください。あなたは、日本の街中で見かけた見知らぬ外国人旅行者に対して「ハロー」と声掛けしますか? しませんね。つまり、日本であろうと外国であろうと、それは異常なことなのです。
タイで外国人に声掛けされる=その時あなたは詐欺のターゲット
なにより、この事実を押さえていただきたい。
また、誤解を恐れずに言うならば、日本人を狙う詐欺師には中近東系が多いです。事実、日本人旅行者ばかりを狙って詐欺を繰り返していた男が逮捕されましたが、この詐欺師はパキスタン人でした(犯人はインド系を名乗っていた)。
標的はバンコクの日本人観光客!パイロットを名乗るパキスタン人詐欺師を逮捕(タイランドハイパーリンクスから)
お金見せて詐欺をやるのは決まってアラブ系です。おそらく、手口がマニュアル化され、コミュニティで共有されているのだと思われます。
タイの地という非日常においては、判断能力も鈍りがちです。あなたが詐欺被害に遭うと、多くの場合泣き寝入りせざるをえません。なぜなら日本大使館もタイ警察も、掃いて捨てるほど頻発する詐欺事件なぞイチイチ相手にしていられない、というのが彼らの本音だからです。
自己防衛するより他ありませんぞ。ぜひお気をつけくださいませ。
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