日本へ革製品を輸入するときは、一般的な商品よりも高い関税がかかります。物によっても異なりますが、商品価格の30%以上を税金として納めなければならないこともあります。輸入者であるあなたは、きっと、この高額な関税に悩まされた経験もあるずです。実は、このような関税を削減するためのいくつかの法制度があるのをご存知でしょうか?
例えば、最近の大きな流れである「自由貿易協定」を使った関税無税輸入です。日本では「自由貿易」という名前に抵抗がある人が多いため「経済連携協定」などとも言われています。この仕組みをうまく利用すれば、本来、高額な関税がかかる物であっても、関税無税で輸入ができます。また、それとは別として「関税割り当て」という制度もあります。
どちらの制度も本来、日本への輸入時に課税されるべき関税を合法的に削減できます。現状、高額な関税の支払いに悩まされている方は、ぜひ、これらの制度を検討することをお勧めします。本日は、この中の一つである「関税割り当て制度」に注目して、そもそも関税割り当てとは何か?から、どのように活用すれば良いのか? までを解説していきます。
関税割当とは?
目次
「関税を割り当てる?」この表現に疑問を持たれる方も多いはずです。関税とは、日本へ商品を輸入するときに、商品ごとに決められている所定の税金です。輸入者は、この税金を日本税関へ納めることによって、輸入が許可されます。では、この関税を割り当てるとは、どのような意味なのでしょうか?
関税割当を正確に表現すると「関税を安く輸入できる数量枠を皆さんに割り当てますよ」という意味になります。安く輸入できる枠と聞いても、なかなかピンときませんね。すでに説明している通り、革製品には、一般的な商品よりも高額な関税がかかります。
例えば、革製品の中で最も一般的な物は「革靴」です。これを日本へ輸入するときは「30%または一足4300円のどちらか高い方」の関税がかかります。一般的な商品の関税が5%など、数パーセントであることを考えると、どれだけ革靴の関税が高いのかがわかります。なぜ、これほどまでに革製品の関税は高いのでしょうか? 諸説ありますが、江戸時代から続く既得権益であると言われています。詳しくはグーグル検索などでお調べください。
どのような理由により高額な関税が設定されていたとしても「国内産業の保護」を目的としていることに変わりません。しかし、この国内保護だけを考えて「全ての商品」ついて、高い関税をかけてしまうと、今度は日本の国内需要を満たすことができなくなり、製品価格が上昇してしまうことになります。つまり、なるべく「関税をかけて国内産業を保護する」ということと、「国内物価を安定させる」ということは、表裏一体の関係であることがわかります。
国内産業を保護する目的で関税を高くすれば、産業は保護できるかもしれませんが、国内の物価があがってしまいます。一方、関税を下げれば、国内の物価は下がりますが、国内産業へのダメージが大きいということですね。そこで、このどちらの目的も満たせるように「関税割り当て制度」を導入しています。
関税割り当てとは、ある一定の数量までは低率な関税を設定して、その制限枠を超える部分については、通常の高額な関税を適用する仕組みのことを言います。これによって、ある一定の数量まで国内へ流通させられるのと同時に、国内産業を保護することもできるようになります。関税割り当て制度とは、この「低率な関税で輸入できる数量」の部分を経済産業省から割り当ててもらうことを言います。
例えば、今年の低率な関税で輸入できる数量は、全国で400万足とします。これを関税割り当ての申請をしてきた業者に、実績に応じて割り当てていくということです。A社には、10万足、B社には1万足、C社には50万足などです。割り当てられる数量は、長年の実績者かどうか、新規であるのかによって、異なります。
補足事項:低い関税率で輸入できる部分を「一次税率」、数量以上の高い関税率が適用される部分を「二次税率」と言います。
関税割り当ての対象品目(種類)
ある一定の数量まで低率な関税で輸入できる。そして、この数量部分を割り当てるのが「関税割り当て制度」です。2017年現在、関税法上の商品分類(HSコード)は5000種類ほどあります。このうち、関税割当品目に指定されている商品は、たった数種類しか存在していません。すべての商品について、関税割り当てが設定されているわけではないためご注意ください。関税割り当てが設定されている代表例は、以下の物になります。
経済産業省:革製品(革靴)、皮革系の商品
農林水産省:とうもろこし、パイナップル缶詰、トマトピューレ、バター、落花生など
ちなみに、これら関税割り当てが設定されている商品は、ウェブタリフ(関税など記載されている表)で確認すると、以下のように表示されています。ここで重要なことは、関税割り当てを適用できる商品は、きわめて限られたものであるということになります。
関税割り当てを利用したい!どうしたら良いの?
これまでの説明で関税割り当てに関する制度の概要はお分かりいただけたはずです。ここから先は、どのようにして関税割り当てを利用できるのか説明していきます。関税割り当て制度を利用する全体的な流れは以下の通りとなります。
関税割り当てを利用するまでの流れ
1.経済産業省か農林水産省に関税割り当ての申請をします。
2.審査を受けて合格すると「関税割り当て証明書」が発行されます。
3.税関への輸入申告のときに、関税割り当て証明書を提出します。
この1~3のステップになります。以下で詳しく説明していきます。
1.関税割り当てを申請します。
まずは関税割り当てを申請します。申請する先は、革系製品の場合、経済産業省へ。農林産品の場合は、農林水産省へ申請します。先ほども述べた通り、関税割り当てが設定されている品目は限られています。経済産業省や農林水産省の説明ページを確認して「そもそも関税割り当ての対象品目なのか?」を確認してください。
1-1.関税割り当てを受けられる人の要件
関税割り当てを受けられるのは、決められた条件を満たした人のみです。下の条件を満たしいない方は、申請すらできないためご注意ください。
② 新規者
上記①以外の者(過去2年間に新規者として再割当による証明書の発給を受け、輸入通関した実績を有する者を含む。)であって、申請日前1年間に、二通関以上「自ら輸入」した貨物の輸入申告価格(CIF建て)の合計額が50万円以上又は一通関100万円以上となる実績を有する者
引用:経済産業省配布資料
この条件を簡単に読み解くと、ポイントは次の四つになります。条件があるように思いますが、ビジネス目的で輸入していれば、満たせるような内容になっています。
- 過去一年以内に輸入した経験がある人
- 一年間の合計輸入回数が少なくても2回以上であること
- 自ら輸入した経験であること(輸入商社経由は×)
- インボイスの価格と送料の合計金額が50万円以上であること(2回の輸入)
1-2.申請できる時期にも注意します。
関税割り当ての申請ができるのは、毎年決められた期間のみです。関税割り当てには、年度枠(毎年四月頃)、保留枠(毎年六月、十月頃)、再割当枠(余りがあれば…)などがあります。すべての枠は、ごく限られた期間のみ申請を受け付けるようになっています。そのため、RSS購読などをして、経済産業省や農林水産省からの情報を見逃さないようにしましょう。各省庁では、毎年三月ごろ、次年度の関税割り当てに関する説明が公開されます。
2.審査に合格すると関税割り当て証明書を受け取れます。
経済産業省や農林水産省への関税割り当て申請が合格すると「関税割り当て証明書」が発行されます。この証明書を輸入申告のときに税関へ提出します。もし、通関業者などを利用して輸入申告している場合は、その通関業者へ関税割り当て証明書を送付すればいいです。
通関業者に関税割り当てを使って輸入申告をしてもらいたいときは、その旨を伝えるようにしましょう。もしかすると、関税割り当てを適用しないまま輸入申告してしまう可能性もありますので….
3.税関へ関税割り当て証明書を提出します。
関税割り当て証明書は、対象の品を輸入申告するときに、税関へ提出します。税関は、関税割り当て証明書に記載されている数量以下の申告分まで、低率の関税で輸入することを認めます。
例えば、関税割り当てが革靴1000足分の証明書だとして、今回の輸入申告では、500足分しかされない場合は、どうなるのでしょうか。この場合、税関は、関税割り当て証明書の裏部分に500足分輸入したことを記載します。これを「裏落とし」などと言います。輸入申告が終ると、この裏落としされた関税証書が返却されてきます。これを繰り返していき、関税割り当てによって割り当てられた数量をゼロまで消化していく仕組みになっています。
まとめ
関税割り当て制度のポイントは次の3つです。「1.国内産業の保護と国内物価の安定の2つを実現する制度」「2.関税割り当てを利用できる品目は限られていること」「3.申請できる人は限られている」です。
高い関税を設定すれば、他国からの商品が流通しずらくなり、国内産業の保護につながります。しかし、これは表裏一体の関係で国内物価の上昇につながります。この両方のメリットをうまく取り入れているのが関税割り当て制度です。また、関税割り当てが設定されている品目は限られています。そして、この制度を利用できる人もある一定の条件を満たした人と決められています。色々と細かいルールがあるため、経済産業省と農林水産省の説明ページを熟読することをお勧めします。