代金回収と契約
このレッスンで学べること
- 貿易契約書の基本的な構成や、記載しておくべき重要な項目がわかります
- インボイス(商業送り状)の具体的な役割や、他の書類との整合性を保つポイント
- 国際取引でよく使われる決済方法(T/T送金やL/C)の違いや、場面に応じた使い分け方を理解できます
- 支払いの遅れや金額の食い違い、代金の未回収など、実務で起こりがちなトラブルを防ぐための具体策も紹介します
国際取引における契約の意味と構成
輸出入の取引では、お互いの認識のズレをなくすために契約書がとても重要です。「言った・言ってない」「決めた・決めてない」といったトラブルを防ぐために、事前にルールを明確にして合意しておく必要があります。
その理由は、取引相手と
- 使う法律
- 言語や通貨
- ビジネスの常識(商慣習)
などが違うからです。
トラブルを防ぐには、Sales Contract(売買契約書)をしっかり作成しておくことが基本です。これが、安心して輸出ビジネスを続けるための第一歩です。
貿易契約書に含まれる基本項目
輸出の契約書には、あらかじめ決まった基本項目があります。JETROやネットでテンプレートを参考にしたり、オンラインで簡単に作成できるサービスもあります。
主な記載項目は以下のとおりです。
- 商品名・型番・仕様・数量・単価
- 通貨・合計金額・出荷日・納期・出荷港・届け先
- インコタームズ(例:FOB、CFR、CIF)
- 支払い方法(前払い・L/C・後払い など)
- 使用する言語・法律・裁判の場所や解決方法(仲裁など)
- 遅れた場合のペナルティや、天災など避けられない事態への対応(不可抗力)
- 保険の手配と費用は誰が負担するか
これらを明確にしておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。

※初心者が陥りやすいのは、契約内容と実務書類(インボイス、L/Cなど)の不整合です。一文字違いでも入金保留リスクがあるため、細部まで一致させることが必須です。
なお、有料、無料の物を問わず、最終的には、専門家のチェックを受けた方が安心です。
よろず支援拠点という国が設置する機関でも確認を受けられるので問い合わせましょう

特に上記の太文字部分は、必ず記載するべき事項です。
インボイス(Invoice)の役割と重要性
貿易書類には、契約書の他、インボイスやパッキングリストなどがあります。この内、商業インボイス(Commercial Invoice)は、輸出契約に基づく請求書です。
●●さんに対して、××を◆◆円で販売した。
このような事実を示します。インボイスは、国際輸送、通関手配、決済・保険請求・L/C対応・会計処理など、あらゆる場面で使用されます。
主な記載内容
輸出に使う「インボイス(商業送り状)」には、次のような情報を記載します。
- インボイス番号と発行日
- 注文番号(PO番号)
- 輸出者・輸入者の会社名、住所、税番号など
- 商品情報(品番、仕様、数量、単価、通貨)
- 取引条件(例:CIF YOKOHAMAなどのインコタームズ)と港名
- 支払い方法(例:T/T、L/C)と支払い期限
- 商品の原産国、HSコード、梱包内容、正味・総重量
- 署名、会社の印、必要に応じた許可番号など
これらを正確に記載することで、通関や取引がスムーズに進みます。

※誤記載は通関拒否、L/C決済拒否など深刻なトラブルを引き起こすため、ダブルチェック体制が不可欠です。
貿易における決済方法とは?
貿易代金のやり取りは、その規模感、頻度、相手の信用度によりいくつかの方法があります。代表的な支払い方法は、次の3つです。
- T/T決済
- L/C決済
- エクスクロー
1. T/T(電信送金)
T/T(Telegraphic Transfer)は、実務で広く利用される国際決済方法であり、輸入者が輸出者口座へ銀行送金します。
メリット
- スピードが速く、処理が簡単
- 柔軟性が高く、少額取引にも適応
デメリット
- 初取引や信用不安時には未払いリスクが高い
- 銀行送金詐欺(偽メールによる口座変更通知)が世界的に急増中
※日本貿易保険(NEXI)などの輸出信用保険活用で回収リスクを軽減できます。
T/T条件
- Advance Payment(前払い)
- Partial Payment(30%前払い+70%出荷後など)
- Open Account(後払い)
実務ポイント
- 初回は送金控え確認後の出荷が推奨
- 為替変動リスクには為替予約(Forward Contract)活用
- 外貨建契約での「円ベース利益確保」には送金日と為替タイミングの調整が重要
2. L/C(信用状)
L/C(Letter of Credit)は、輸入者の依頼で銀行が発行する支払い保証書で、信用度が高い決済方法です。但し、L/Cは記載内容に間違いが一切、許されない厳格な決済方法です。書類同士の不一致のことを「ディスクレ」と言います。
メリットとデメリット
- 書類が正確であれば銀行が確実に支払
- 初取引や高額取引でも信頼性が高い
- 手続きが複雑でコスト高
- わずかな記載違いでもディスクレ(不一致)扱いになる

※世界全体でのL/Cディスクレ率は平均65〜75%とも言われており、実務では「一発OK」はむしろ例外です。
L/Cの基本構成
L/C(信用状)は、輸出入の取引で「支払いを保証する書類」です。以下が基本のしくみです。
基本の構成
- 発行銀行:輸入者側の銀行
- 通知銀行:輸出者側の銀行(内容を伝える役割)
よく使われる書類
- 商業インボイス
- B/L(船荷証券)
- 保険証券
- 原産地証明書
- パッキングリスト など
重要な期限
- 積み出し期限
- 書類提出期限
- 信用状の有効期限
実務上の注意
- 輸出者はL/Cの内容を事前にしっかり確認しましょう(修正も可能)
- 書類はL/Cと完全一致が必要です(例:「Shipment」と「Shipping」の違いもNG)
- 通知銀行や買取銀行は、実績や信頼性で選ぶのが安心です
L/C取引は安全ですが、ルールが厳しいため、細かい確認がとても重要です。
【参考】L/C不一致事例
決済トラブルを防止するためのポイント
輸出入では、お金のやり取りでトラブルが起きることも少なくありません。以下の点に気をつけることで、安心して取引ができます。
書類の内容はしっかりそろえる
契約書・インボイス・L/C・B/Lなどの内容が一致しているか確認しましょう。書類の作成は2人以上でチェックするのがおすすめです。
■ L/Cの条件が厳しすぎるときは?
実際の取引とかけ離れた条件がある場合は、すぐに買い手と相談して修正依頼を出しましょう。
■ T/T(電信送金)は信頼関係がカギ
初めての取引では、送金確認後に出荷するのが基本です。焦って先に送らないように注意。
■ 送金詐欺を防ぐには?
送金前に、銀行名義やSWIFTコードを別ルートでもう一度確認しましょう。メールだけの情報は危険です。
■ 為替の変動対策
為替が大きく動くと利益に影響します。たとえば、1ドル5円動くだけで100万円の差が出ることも。「為替予約(予約レート)」を活用してリスクを減らすのがポイントです。
事前の確認と対策で、安心・安全な貿易取引を実現できます!
補足情報
契約書の基本構成について
国際取引の契約書には、基本的に次のような項目が含まれます。
- 表題(例:Sales Contract=売買契約書)
- 契約日と会社情報(会社名・住所・法人番号など)
- 前文(この契約を結ぶ目的や背景の説明)
- 本文
- 商品の内容・数量・価格
- 支払い条件・インコタームズ(FOBなど)
- 納期・使う法律・トラブル時の解決方法 など
- 署名欄(会社の代表者がサイン、または社印)
このような構成にすることで、相手としっかり内容を確認し合い、トラブルを防ぐことができます。

これらの項目を明確にし、将来的なトラブルを防止します。
インコタームズの概要
インコタームズは、貿易で「費用やリスクをどこまで誰が負担するか」を決める国際ルールです。国際商業会議所(ICC)が作っており、世界中で使われています。
代表的な条件には次のようなものがあります。
- FOB(本船渡し)
- CFR(運賃込み)
- CIF(運賃・保険料込み)
取引をスムーズに進めるために、インコタームズの理解はとても重要です。
B/L(船荷証券)について
B/L(Bill of Lading、船荷証券)は、貨物の受け渡しや所有権の移転を証明する非常に重要な書類であり、L/C(信用状)決済や通関手続きにも不可欠な文書です。B/Lに記載される内容と他の書類との整合性についても重要です。
貿易契約・決済・書類整合に関するよくあるQ&A
Q1. 貿易契約書は絶対必要ですか?
A. 必須ではありませんが、作るべきです。口約束やメールだけだとトラブルになりやすいため、「商品・数量・価格・支払い方法・インコタームズ」だけでも文書で合意しておくと安心です。
Q2. 契約書とインボイスの内容が少し違っても大丈夫?
A. ダメです。たとえ一文字違っても、L/C(信用状)では支払いが拒否されることも。契約書 → インボイス → L/Cの順で内容をそろえるのが基本です。
Q3. T/T送金は手軽そうだけど、安全?
A. スピーディーですが、リスクもあります。初めての相手なら、部分前払い+送金確認後に出荷する方法が安心。信用がついたら後払いにするなど、段階的に進めましょう。
Q4. L/Cなら確実にお金を受け取れますか?
A. 書類が完璧なら安心です。でも、少しでも書類に違いがあると銀行は支払いを拒否できます。L/Cを使うときは、書類を正確に作ることが大前提です。
Q5. L/Cで書類の不一致はよくあるの?
A. はい。世界的に約70%で不一致が指摘されています。「数字のズレ」「単語の違い」など、細かいミスでもNG。初心者は特に注意しましょう。
Q6. 支払いのトラブルを防ぐ方法は?
A. 書類をすべて揃えて、内容を統一することです。
- 契約書・インボイス・L/C・B/Lの表現や数量をそろえる
- 社内で出荷前にダブルチェック
- 送金先の口座情報は2つの方法で確認(詐欺対策)
Q7. T/TとL/C、どちらを使えばいい?
A. 相手や金額によって使い分けましょう。
- T/T:小口・リピート・信用ある相手向け
- L/C:初めて・高額・新興国との取引におすすめ
それぞれのリスクとコストを比べて判断するとよいです。
まとめ
- 契約書は「取引の設計図」、曖昧な条件は後のトラブル要因
- インボイスは全業務の起点、税関・銀行・会計に直結するため正確性が最重要
- T/Tは柔軟性、L/Cは信用性と確実性が強み
- 支払い条件管理と社内決済フローの整備が回収リスク低減の鍵
次の記事>>「第9回:実際の輸出事例で学ぶ!成功と失敗の分かれ道」
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