インコタームズとは?
このレッスンで学べること
- インコタームズ(貿易取引条件)の基本的な考え方と、なぜ必要なのかが理解できます
- FOB、CIF、EXWなど、よく使われる用語の意味と違いを整理できます
- 「誰が」「どのタイミングで」「どこまで」費用やリスクを負担するのか、判断の基準がわかります
- 実際の輸送・保険・通関手配で注意すべきポイントを実務目線で学べます
- インコタームズの使い方を間違えたことで起きたトラブル事例とその対処法
- 企業規模や取引相手に応じた、条件ごとのリスクやコストの違いと使い分け方
インコタームズとは?
インコタームズ(Incoterms)は、国際取引において売主(輸出者)と買主(輸入者)が負担すべき費用とリスクの範囲を明確にするための国際規則です。国際商業会議所(ICC)により1936年に初版が発行され、以降複数回改訂されており、最新版は「インコタームズ2020」です。
このルールを使えば、たとえば「運賃は誰が払うのか」「どの地点でリスクが移転するのか」「通関・保険・輸送の手配はどちらがするのか」といった重要事項を、国際的な共通言語で合意できます。これにより、契約書の曖昧さを排除し、トラブルの未然防止につながります。
実務では、見積書・契約書・インボイスなどに明記することで、輸出者・輸入者・フォワーダー・通関業者など関係者間の認識を揃える役割も果たします。
インコタームズの基本構造
インコタームズは、11の取引条件で構成されています。これらは….
「出荷地での引渡し(出荷地条件)」と「到着地での引渡し(到着地条件)」に大別されます。
① 出荷地で引き渡す条件(E・Fグループ)
例:EXW(工場渡し)、FOB(本船渡し)
- 売り手は、自国での引き渡しまで担当
- その後の費用やリスクは、買い手の負担
- 売り手にとっては負担が少ない
② 到着地で引き渡す条件(C・Dグループ)
例:CIF(運賃・保険料込み)、DAP(指定地渡し)
- 売り手が輸送や保険まで手配
- 費用は売り手側が多く負担
- 買い手は受け取るだけなので簡単だが、価格は高め
この2つの違いを知っておくと、相手国や取引内容に合った条件を選びやすくなります。
代表的なインコタームズの解説と比較
EXW(Ex Works:工場渡し)
EXWは、「売り手の工場や倉庫で荷物を渡した時点で、売り手の責任が終わる」取引条件です。
- 売り手は通関もしなくてよい(※実際はサポートすることもあり)
- 買い手が、輸送・通関・保険をすべて手配します
- 買い手の負担が大きいため、個人輸出や少量の取引には向いていません

輸出取引で最も楽な形態です。(売り手として楽な方法)
FOB(Free On Board:本船渡し)
FOBは、売り手が輸出通関をして、本船に荷物を積むまでが責任の取引条件です。
- その後の運賃・保険・リスクは買い手が負担します
- 海上輸送でよく使われる条件で、初心者でも取り組みやすいです
- 港によっては、THC(港の取り扱い費用)などの追加費用がかかることがあるので、事前確認が大切です
※コンテナ輸送の場合、FCA(指定場所引渡し)の方が実務に合うこともあります。
CIF(Cost, Insurance and Freight:運賃・保険料込み)
CIFは、売り手が運賃と最低限の保険を手配し、到着港まで費用を負担する条件です。
- ただし、リスク(責任)は本船に積んだ時点で買い手に移ります
- 見積金額がわかりやすく、買い手にとっては使いやすい条件です
- 売り手は、保険の補償範囲を買い手と事前に確認・共有しておくと安心です
インコタームズ選定の実務ポイント
初心者の会社は、まずFOB(本船渡し)やCIF(運賃・保険込み)を使うのが一般的です。でも、相手国の港や通関制度によって向き・不向きがあるので、安易に選ばないことが大切です。
- CIF:輸出者が主導権を持ちたいときにおすすめ
- FOB:費用をできるだけ抑えたいときに便利
一方、EXW(工場渡し)やDDP(相手先まで届ける)などの極端な条件は、相手国の税制や制度をよく知らないとトラブルになるリスクがあります。
契約時のポイント
契約書には「インコタームズ2020に準拠」と書いておくと安心です。また、インコタームズ2020では以下の変更もありました。
- FCA条件でも、信用状(L/C)で使いやすくなった
- CIP条件では、より広い範囲をカバーする保険(ICC A)を売り手が用意するルールに変更
これにより、輸出者・輸入者の実務負担が明確になり、取引もスムーズになります。
書類・保険・通関との関係
インボイスには、「FOB Tokyo」や「CIF Los Angeles」など、取引条件と港の名前をしっかり書きます。取引条件によって、
- 誰が保険をかけるのか
- B/LやAWBに何を書くか
なども変わってきます。また、インボイスとパッキングリストの内容はそろっている必要があります。書類に違いがあると、通関が遅れたり、輸送トラブルにつながることも。そのため、社内で2人以上で確認する「ダブルチェック」がおすすめです。

書類不整合は輸送遅延・通関トラブルに直結するため、チーム内でのダブルチェックが推奨されます。
インコタームズに関するよくある誤解と注意点
1. 「FOBなのに売り手が輸送も担当」はNG
契約ではFOB(本船渡し)と書いてあるのに、実際は売り手が運送まで手配していることがあります。このように契約と実態が違うと、トラブル時に責任の所在があいまいになり、裁判になることもあります。
2. 「DDPなら安心」は危険
DDP(関税込みで届ける)は便利そうに見えますが、相手国の税制や通関ルールをよく知らないと、追加料金や納品トラブルにつながることがあります。特に新興国では、現地に詳しいパートナーと連携することが大切です。
3. インコタームズは「所有権」を決めるルールではない
インコタームズは、誰がどこで荷物を引き渡すか、費用やリスクを誰が負担するかを決めるルールです。「いつ所有権が移るか」は別途、契約書に明記する必要があります。
4. Dグループ(到着地渡し)は上級者向け
Dグループ(例:DAP、DDP)は、相手国の制度に詳しくないと対応が難しい条件です。
初心者は慎重に選びましょう。
インコタームズの導入事例と活用のコツ
日本の中小企業が初めて輸出する場合、まずはFOB(本船渡し)から始めて、慣れてきたらCIF(運賃・保険込み)に切り替えるのが一般的です。これは、自社の経験や輸送管理の力に合わせて、段階的に対応する方法です。
また、越境EC(海外ネット販売)では、CIPやDAPなど航空便に合った条件がよく使われます。
インコタームズは、自社のリスクの取り方やコスト感に合わせて選ぶことが大切です。
取引の成功率とコストのバランスを考えながら、自分に合った条件を選びましょう。

インコタームズは条件により海上輸送限定の物があります。
補足情報
インコタームズで決まらないこと
インコタームズは、「どこで荷物を引き渡すか」「費用とリスクがいつ移るか」を決めるルールです。でも次のようなことはカバーしていません。
- お金の支払い方法やタイミング
- 所有権がいつ移るか
- トラブル時の対応方法
これらは、売買契約書に別でしっかり書く必要があります。
DPUとCIPの2020年版での変更
DAT → DPUに名称変更
昔の「ターミナルで渡す(DAT)」は、「仕向地で渡す(DPU)」に名前が変わり、ターミナル以外の場所でも引き渡しOKになりました。
CIPの保険が強化
売り手がかける保険の内容が、もっと広くカバーするタイプ(Clause A)にグレードアップ。これで、買い手がより安心できるようになりました。
インコタームズに関するよくあるスタートアップの疑問と回答
Q. インコタームズと所有権移転のタイミングは同じですか?
A. いいえ。インコタームズは「リスクと費用負担」のルールであり、「所有権の移転」は契約書で別途明記する必要があります。混同しないよう注意が必要です。
Q. インボイスにFOB TokyoやCIF Los Angelesと書くだけでOKですか?
A. インボイスには必ず「条件+地名」を明記することが基本ですが、実務では、契約書・B/L・保険などすべての書類で条件が一致しているかを確認する必要があります。
Q. DDP(関税込み)条件は安全ですか?
A. 特に新興国向けでは危険なことがあります。現地税制や通関制度の理解不足だと高額な追加費用や納品不能リスクがあります。現地事情に詳しいパートナーと連携するか、DDPは避けるのが無難です。
Q. インコタームズは2020版を必ず使うべきですか?
A. 可能な限り最新の2020版を使うべきですが、契約書で「インコタームズ2010」など古い版を明記すれば、そちらが適用されることもあります。常に契約書でどの版を使っているか確認しましょう。
Q7. 相手国の港湾事情や物流インフラはどこで調べられますか?
A. JETROや現地フォワーダー、通関業者、商社などから情報収集が可能です。契約条件を決める前に、必ず確認し、想定外の費用(港湾チャージなど)が発生しないようにじましょう。
まとめ
- インコタームズは国際商取引における「責任」「費用」「リスク」配分の基準である
- 実務ではFOBとCIFを基本に、取引相手の信頼性や輸送条件に応じて使い分ける
- 契約書や書類への明記、運送・保険との連携が成功のカギ
- トラブル回避には、インコタームズそのものの理解と、「実態との整合性」を意識した運用が重要
次の記事>>「第6回:物流の基本知識(FCL/LCL・航空便・混載便)」
基幹記事
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