中国国内物流ガイド:内陸都市への確実な配送を実現する実践的手法
なぜ内陸都市への到達が市場攻略の鍵となる?
中国の沿岸港に貨物が到着した段階では、実はまだ物流の半分しか完了していません。現在、中国で最も需要が拡大しているのは、長江流域の武漢・重慶、西部の成都・西安、華北の鄭州・太原といった内陸都市です。これらの都市まで確実かつ安定的に貨物を届けられるかどうかが、最終的な納期遵守、コスト管理、そして在庫回転率を決定づける重要な要素です。
本記事は、日本の中小企業が実際の業務において活用できる、輸送手段の選び方、各種規制への対応、保税制度の効果的な活用法、発生しがちなトラブルへの対処方法を体系的にまとめた、内陸物流の基礎知識と実践ノウハウを集約したガイドです。
中国内陸輸送で利用される主要な輸送手段とその特徴
1. 鉄道輸送(内陸鉄道・鉄道コンテナ)
適用場面:中距離から長距離(おおよそ800~2,000km)で、10トン以上または複数パレット単位での定期的な出荷に適しています。
メリット:道路渋滞や天候の影響を受けにくく、輸送コストが安定しており、大量の貨物を一度に運べます。
デメリット:出発地と到着地でのトラック輸送(コンテナヤードから工場まで)が必要で、列車の運行本数や鉄道基地の予約状況によって、繁忙期には遅延が発生する可能性があります。
主要な内陸駅:成都、重慶、蘭州、西安、鄭州、武漢、合肥などがあります。上海からの標準的な輸送期間は2.5~5日程度ですが、港湾の混雑や輸送枠の不足により、1週間程度かかることもあります。
2. トラック輸送(フルトラックロード・混載便)
適用場面:短距離から中距離の輸送で、時間を重視する場合や、柔軟な集荷・配送が必要な場合に適しています。
メリット:工場から最終配送先まで直接輸送でき、細かな時間指定が可能で、積み替え回数が少なくて済みます。
デメリット:重量・寸法規制や都市部への進入制限(限行)があり、運転手不足の時期には運賃が高騰します。2021年以降は「国六基準車」に対応していない車両は都市部への進入が禁止されています。2022年以降、上海や深圳では電子通行証制度が導入され、事前申請が必須となっています。
3. 内航船・河川輸送(長江水運)
適用場面:長江流域の南京・武漢・重慶などへの大量輸送で、輸送速度よりもコストを重視する場合に適しています。
メリット:大量の貨物を一括輸送できてコスト効率が良く、環境基準への適合もしやすいです。
デメリット:水位、霧、閘門での待機などの影響により、所要日数の変動幅が大きくなります。2023年の四川省の干ばつでは、重慶便が1ヶ月近く運休した実例もあります。
コスト比較例:上海から重慶への40フィートコンテナ輸送の場合、鉄道では15,000~20,000元、水運と内陸トラックの組み合わせでは10,000~15,000元程度です。時間の安定性では鉄道が、コスト面では水運が優位となっています。
輸送手段選択の実用的な判断基準
- 600km未満:トラック輸送が優位(時間重視の場合)
- 600~1,500km:鉄道とトラックを比較検討(物量が10トン超、定期便の場合は鉄道が有利)
- 長江沿線の大量貨物:河川船と内陸トラックの組み合わせが効果的
中欧班列を活用した内陸輸送の可能性
中欧班列(China Railway Express)は、中国の内陸都市(重慶・成都・西安・鄭州など)とヨーロッパを結ぶ国際鉄道ネットワークです。国内輸送においては、内陸のハブ駅までの安定した輸送手段として活用できます。
輸送時間
上海・寧波港周辺から内陸ハブ駅まで2.5~5日程度。ただし、列車予約の混雑や積み替え作業により、7日近くかかる場合もあります。
コスト
海上フィーダー輸送と鉄道輸送、純粋な鉄道ドレージなど、構成によって変動します。定期的でまとまった貨物量がある場合に有利です。
効果的な活用方法
展示会などの繁忙期は予約枠が不足するため、トラックや水運との併用による「複数ルートの確保」が現実的です。港湾側の混雑が予測される際は、早めの鉄道基地予約とハブ駅でのバッファ在庫確保による需給調整が有効です
トラック輸送で把握すべき規制と対策
中国の道路規制は省・市レベルで詳細が異なりますが、共通して重要な3点があります。
1. 重量・軸重規制(治超)
過積載取締りが厳格化されており、走行計量システム(WIM)や料金所での計量で超過が判明すると、積み替え、罰則、遅延に直結します。
対策:出荷前の実重量・寸法の確定、パレット枚数・固定方法を含めた計画立案。混載輸送時は他社貨物の重量情報も確認が必要です。
2. 都市部の進入規制(限行)
大都市圏では大型車両の昼間進入禁止や、環境基準(排出規制)による車両制限があります。
対策:夜間・早朝の搬入枠を前提とした計画立案。ターミナルの予約システム(アポイントメント制)への対応も重要です。
3. 特殊車両通行許可(超寸法・超重量)
プラント設備・射出成形機などは道路・橋梁の許容範囲を超える場合があります。
対策:図面・重心・固定計画に基づく事前申請。迂回ルートや補強車両(多軸台車)を前提とした見積り作成が必要です。
保税区・自由貿易区を活用した効率的な物流スキーム
保税区や自由貿易試験区(FTZ)の最大の利点は、関税・付加価値税の課税を後ろ倒ししながら保管・流通ができることです。
主要な利点:関税・付加価値税の課税繰延、内陸近接地での在庫保持が可能
代表的な活用スキーム:
- 保税在庫からの需要発生時の分割通関
- 簡易加工(ラベリング・セット組み)
- 越境EC向けの「保税在庫直送模式」「保税展示取引模式」(契約書・SKUコード登録が必須)
実務上の要件:保税区間の二次移送はH2010/H2000システムでの電子申告が義務付けられており、エラーにより貨物が足止めされる可能性があります。
日本企業が遭遇しやすいトラブル事例と効果的な対策
事例1:コンテナヤードでのフリータイム超過
状況:港湾混雑とゲート予約未取得により搬出が遅延し、滞船料・滞貨料が数十万円規模に膨らむ
対策:到着前のドレージ枠とゲート予約の確保。内陸側倉庫・鉄道基地のスロットも同時確保し、「一貫した輸送スケジュール」を構築する
事例2:長江水運での水位・霧によるダイヤ乱れ
状況:上海から武漢便が低水位と霧で遅延し、展示会の納期に間に合わない。
対策:季節要因を考慮し、河川輸送から鉄道への切り替えプランを契約に明記。緊急時はトラック分割出荷で最低限の数量を先行配送
事例3:過積載摘発による積み替え・納期延長
状況:混載便で総重量超過、途中計量での積み替え指示により内陸での再配車・倉庫手配でコストが膨張
対策:貨物実測の共有(重量・寸法)の必須化。混載相手の管理水準の選別。荷役時の写真・計量票のエビデンス化
事例4:保税区在庫の入出庫差異による出庫停止
状況:入庫時のロット紐付け不足で数量照合不可となり、出庫が差し止められる
対策:ロット・シリアル追跡と二次元コードの標準装備。倉庫管理システム(WMS)の在庫照合レポートの月次相互確認
事例5:都市部限行による配達不能・再配送
状況:昼間配送不可の都市規制に気付かず配達失敗し、再配送費用と納期遅延が発生
対策:都市コード別の限行表の運用と夜間・早朝枠での設定。オフィス街・商業施設への搬入窓口の事前予約の徹底
内陸都市への確実な配送を実現するための設計ポイント
- 輸送手段の複数確保:トラック・鉄道・水運を複数のシナリオで準備する
- 「時刻表化」の推進:港ゲート予約からドレージ、鉄道・水運、内陸配送まで連動管理する
- 規制への対応:過積載取締り・限行・国六規制・特殊車両許可を標準プロセス化する
- 保税制度の活用:キャッシュフロー改善と販促期の波動吸収を図る
- 証跡管理の徹底:計量票・写真・WMSレポートを標準化し、説明責任を担保する
- デジタル連携の強化:WeChat・WMS・IoTによるリアルタイム状況共有を実現する
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