
中国輸入の費用内訳と見積書解読ガイド:実務者が理解すべき重要ポイント
はじめに|“運賃+諸費用”では読み切れない
中国からの見積書は一見シンプルに見えますが、インコタームズ・輸送形態・中国側/日本側費用・多様なサーチャージが重なり、総額は大きく振れます。本ガイドは、項目の意味と相互関係を“順番に”ほどき、追加請求と納期トラブルを避けるための解読手順を示します。
中国輸入見積書が複雑に見える理由
中国からの輸入の見積書は、一見すると「運賃+諸費用」というシンプルな構成です。
しかし実際には、インコタームズ条件や輸送形態によって費用の範囲が大きく変動し、さらに中国側と日本側の費用区分や多様なサーチャージが複雑に絡み合います。まさ”複雑の極み”
そのため、中国輸送の実務担当者にとって、見積書を正確に読み解く力は、適切なコスト管理とトラブル回避の重要なカギです。
「見積もり書には何が記載されているのか?」
見積書の構造を理解することで、予期しない追加費用を防ぎ、正確な予算設定が可能です。
見積書の全体像|まず“範囲”を確定する
最初に確認するのは、誰がどこまで費用を負担するか(範囲)です。ここが曖昧だと、以降の差額はすべて“不意打ち”になります。
インコタームズでの費用・危険負担の境界
- FOB 上海:本船積込“まで”売主負担/以降は買主。危険負担の切替は積込時点。
- CFR 横浜:海上運賃は売主負担(保険は買主)。
- CIF 東京:海上運賃+保険まで売主。到着後は買主。

ポイント:見積書/契約書/インボイスの条件表記(FOB/CFR/CIF 等)を必ず照合。表記不一致=将来の追加請求です。
輸送形態で変わる費用構造|FCL vs LCL
同じ距離でも、FCL(コンテナ単位)とLCL(混載)ではコストの組み立てが異なります。
FCL(フルコンテナ)
- 主要コスト:THC(目安:20ft ≈ 34,000円/40ft ≈ 51,000円)、D&D(デマレ・ディテンション)超過金。
- リスク:フリータイム超過で1日数千〜数万円。繁忙期は超過しやすい。
LCL(混載)
- 主要コスト:CFSチャージ、W/M課金(重量または容積の大きい方)、最低課金、ドキュメント費。
- リスク:最低課金で小口が割高に。連れ検査・積替で遅延しやすい。

判断の目安:20ftで6割超(約18CBM)積むならFCLが総額・安定性で優位になりやすいです。
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中国側費用の落とし穴|CIC/内陸費用/バンニング等
見積書に中国側現地費用が含まれていない(=Collect)と、日本側で後日請求されがちです。
- 代表例:CIC(China Import Service Charge)、中国港湾費・ターミナル費、工場→港内陸トラック費、バンニング、CFS搬入費 など。
- 確認文言:見積の但し書きに「現地費用はCollect」の記載がないか。含有/不含有を明文化。

対策:“含む/含まない”の一覧表を見積書に添付依頼。中国側費用は通貨(CNY)・支払地まで明示します。
サーチャージと追加費用の多様化
輸入見積書では、基本運賃以外のサーチャージが多様化しています。主なものには、BAF・FAF(燃油サーチャージ)、PSS(ピークシーズンサーチャージ)、EIS(緊急インフレサーチャージ)、CIC(中国特有チャージ)、DOC fee・Handling feeなどがあります。
フォワーダーや船舶会社によって名称や金額が異なるため、必ず明細を確認し、「その他諸費用」の正体を明らかにすることが重要です。不明確な費用項目は後日のトラブルの原因です。
国際輸送費のしくみ完全解説|見積書の読み方・チャージ・交渉の注意点まで
税関・検疫で増える“時間とコスト”|事前教示で先回り
税関での書類不備やHSコード誤りは、リードタイム延長と予期しない追加費用を招きます。
- 関税評価に差異が生じれば、追加課税のリスクがあります。
- インボイス不備により差し戻しや再通関が発生すれば数万円の費用が追加されます。
- CIQ(検疫検査)対象となる食品や化粧品では数日間の停滞と追加費用が発生します。
これらのリスクを減らすためには「事前教示制度」を活用し、HSコードや関税率を事前に明確にしておくことが重要です。
税関の事前教示制度とは?税関にHSコードを問い合わせられる!
航空輸入の特殊コスト|体積重量と各種チャージ
航空輸入は、海上輸送とは異なる課金体系です。
- FSC(燃油特別付加運賃)
- セキュリティーチャージ
- Handling Fee(混載手数料)
- 体積重量課金(1CBM=167kg換算)
などが主要な費用項目となります。国際宅配便(クーリエ便)は最低課金があり、スピードを重視する場合には有効ですが、高コストになりやすい特徴があります。緊急性と費用のバランスを慎重に検討する必要があります。
ケース比較|見積を“数字”で読み替える
具体的な見積比較例を通じて費用構造の違いを理解しましょう。
FOB上海→東京港 FCL20ft
- 海上運賃:200,000円
- THC:34,000円
- 通関費:10,000円
- D&D:無料日数超過で1日10,000円
CIF寧波→横浜 LCL 5CBM
- 海上運賃:5CBM×8,000円=40,000円
- CFSチャージ:15,000円
- 書類費:5,000円
- CIC:数千元(現地払い)

貨物量が多ければFCLの方がコストが優位になることが多いです。
“追加請求ゼロ化”の解読手順(現場用)
インコタームズの条件を正確に把握し、費用負担範囲を明確化することが基本とです。FCLとLCLでコスト構造が大きく異なることを理解し、中国側費用やサーチャージも確認します。
税関リスクを見込んで書類精度を高め、航空輸入では体積重量課金体系を前提とした比較を行います。この見積書を「内訳ごとに分解し、契約条件と突き合わせる」ことが、予算超過やトラブル防止に有効です。
- インコタームズを契約書・インボイスと照合(FOB/CFR/CIF)。
- FCL/LCLを確定し、損益分岐(約18CBM)を試算。
- 中国側費用(CIC/内陸/CFS)の含有可否を確認(通貨・支払地も)。
- サーチャージを名称→計算根拠→期間で分解。
- HSコード・書類を事前点検(事前教示・ラベル案レビュー)。
- 相見積を取り、条件を同一化して横比較(リンゴtoリンゴ)。
中国貿易実務で使えるチェックシート
変動要因(○/×)
- インコタームズ違いで費用境界が変わる
- FCL/LCLの形態でコスト差が出る
- 中国側費用(CIC・トラック・CFS)の有無を把握
- 燃油・為替の市況で上振れ
- 税関・CIQで追加費用が発生
中小企業向け To-Do
- 見積条件(FOB/CIF)を契約書と照合
- FCL/LCLどちらが有利かを試算
- 中国側費用の含有確認(Collect回避)
- サーチャージ明細の取得
- HSコード・書類を入港前に整備
まとめ|“内訳×条件”で必ず分解する
- 総額は条件の置き場所で変わる。まず範囲を確定。
- FCL/LCLは構造が違う。分岐点(≈18CBM)を忘れない。
- 中国側費用とサーチャージは名称だけで合意しない。明細・根拠・期間で握る。
- 税関・CIQは事前教示・事前点検で“想定内”に。

次のステップ:自社フォーマットの見積比較表(項目×含有/Collect×通貨)を作成し、横並びで判断できる体制にアップデートしましょう。
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