中国越境EC市場への参入ガイド:日本企業が成功するための実践的ポイント
急成長する中国越境EC市場が日本企業にもたらす大きなビジネス機会
中国は世界最大規模のEC市場として知られており、その中でも「越境EC(跨境电商)」と呼ばれる分野は年率二桁の成長を続けています。この仕組みは、中国の消費者が海外ブランドの商品を直接購入できるというもので、日本企業にとっては販路拡大の絶好のチャンスです。
しかし、越境ECには従来の企業間貿易とは大きく異なる独自の税制、規制、返品制度が設けられており、これらを十分に理解しないまま参入すると深刻なトラブルに発展する可能性があります。本記事では、日本企業が実際に中国越境EC市場へ参入する際に必ず知っておくべき最新の制度と実務対応について詳しく解説します。
越境EC専用商品リストと販売可能商品の範囲
中国での越境ECでは、中国政府が定める「越境EC零售进口商品リスト(ポジティブリスト)」に記載されている商品のみが販売対象です。このリストには主に化粧品、ベビー用品、健康食品、日用消費財が含まれていますが、特殊成分を含む健康食品や医療機器については対象外です。
注目すべき点として、化粧品については通常の輸入手続きでは「製品登録」や「許可証」の取得が必要ですが、越境ECを通じた販売では一部のケースでこれらの手続きが免除されます。ただし、2021年に施行された「化粧品監督管理条例」により、一部の高リスク商品については例外的な扱いがあるため注意が必要です。
健康食品やサプリメントについても越境ECでは登録手続きが不要とされていますが、広告表現やラベル表示に関する規制は厳格で、虚偽の表示を行った場合は処罰の対象です。

このポジティブリストは不定期に改定されるため、商品を出品する前には必ず最新版を確認することが欠かせません。
個人消費者向けの課税制度と購入上限金額の仕組み
2019年以降、中国政府は「越境EC小売輸入税制(跨境电商零售进口税)」という制度を整備しました。従来使われていた「行郵税」という名称は古く、現在は正式にこちらの制度に基づいて運用されています。
この税制の主な特徴は以下のとおりです。
- 関税率:0%
- 輸入増値税および消費税:通常税率の70%で徴収
税額の計算式は次のようになります。

納付税額 = (商品価格 + 運賃等)×(輸入増値税率 + 消費税率)× 70%
購入上限は1回あたり5,000元以内、年間で36,000元までとなっており、これを超えた場合は通常の輸入扱いとなり、関税や検疫の対象です。日本企業は、高額商品を販売する場合、分割購入の提案や販売戦略の工夫により、消費者に過度な税負担がかからないよう配慮する必要があります。
越境ECにおける2つの物流モデルとその特徴
越境ECの物流には「直送型」と「保税倉庫型」の2つの方式があります。
1.直送型
- 日本から中国の消費者へ直接配送する方式です。
- メリット:在庫を抱えるリスクがなく、小規模事業者に適している
- デメリット:配送に時間がかかり、返品や通関でのトラブルが発生しやすい
2.保税倉庫型
商品を事前に中国国内の保税区に搬入しておき、注文を受けてから出庫・課税する方式です。
メリット:即日配送が可能で、返品処理もスムーズに行える デメリット:在庫を保有するため資金面での負担が発生する
なお、「保税倉庫に入れた時点で輸入許可が得られる」という説明は正確ではありません。実際には「検疫・審査を通過した後、注文が発生した時点で簡素化された通関・課税処理が実施される」という仕組みです。
さらに、越境ECには「保税区返品」という特別な制度があり、返品された商品を保税区に戻して再販売することが可能です。これは通常の輸入貿易にはない特徴で、返品率が高い中国市場において大きな実務上の利点となっています。
主要ECプラットフォームの比較と選択のポイント
従来の大手プラットフォームに加えて、SNSと連動したタイプが急速に成長しています。
天猫国際(Tmall Global)
アリババグループが運営。ブランドの公式店舗展開に最適ですが、出店にかかるコストは比較的高めです。
京東全球購(JD Worldwide)
強力な物流ネットワークを持ち、高額商品や家電製品などの販売に適しています。
拼多多国際(Pinduoduo International)
価格競争力に優れ、地方都市や若年層の消費者に人気があります。
抖音電商(Douyin/TikTok China)・小紅書(RED)
SNSと連動したタイプで、インフルエンサーを通じた販売が急激に成長しています。2022年以降、日本ブランドの新規参入が拡大しています。
自社商品の特性に応じて「ブランド価値を重視するタイプ」か「低価格・SNS拡散を重視するタイプ」かを明確に選択することが成功の鍵となります。
2024年から2025年にかけては「抖音電商」と「拼多多国際(Temuを含む)」のシェアが急速に拡大しています。
輸送・返品で発生しやすいトラブルと効果的な対処法
越境EC特有の典型的なトラブルとその対策は以下のとおりです。
通関遅延
- 発生要因:リスト対象外商品や書類不備による貨物の積み残し
- 対策:出荷前に輸入者・プラットフォームとの情報照合を徹底する
返品処理
- 発生要因:中国の消費者は返品率が高い傾向にある
- 対策:保税区返品制度を活用するか、現地倉庫で返品処理ルートを構築する
偽造商品リスク
- 発生要因:商標を先に出願登録されると出店不可や差し止めの対象となる
- 対策:出店前に必ず商標を取得し、税関へのブランド登録(模倣品対策)も実施する
輸送時の破損
- 発生要因:小口配送で梱包不良が頻繁に発生する
- 対策:ISPM15準拠の梱包を実施し、出荷時の写真記録でエビデンスを確保する
第8回:中国と日本の通関で起きやすいトラブル事例と対策|中小企業向け実務ガイド
従来のBtoB貿易とは異なる越境ECルールへの適応が成功の鍵
越境ECは「少量・多頻度」「個人消費者向け」という特徴により、従来の企業間貿易とは根本的に異なる性質を持っています。ポジティブリスト、課税上限、返品制度などを正しく理解せずに参入すると、市場参入後に大きな損失を被るリスクがあります。
日本企業が成功するためには、参入前に商標登録、返品処理の設計、課税計算の理解、プラットフォームの選定を同時並行で進めることが不可欠です。これらの準備を徹底することが、中国市場における持続的な成長の基盤となります。
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