中国向け輸出の輸送方法の選択ガイド:FCL・LCL・航空便の実務判断基準
中国輸出で直面する輸送方法の選択課題
中国向け輸出では、貨物の規模、納期、コストに応じて「FCL(コンテナ単位輸送)」「LCL(混載輸送)」「航空輸送」のいずれかを選択する必要があります。表面的には単純な選択に見えますが、実際の判断には損益分岐点の計算やリスク管理が必要です。
中国は港湾の混雑や税関検査の強化が頻繁に発生するため、輸送方法の選び方一つで納期やコストに大きな差が生じます。適切に選ぶには、各輸送方法の特徴とリスクを深く理解することが重要です。
LCLに潜む遅延・検査リスクとその実務への影響
LCLは「小口貨物を安価に輸送できる」メリットがある一方で、特有のリスクがあります。
連れ検査による遅延
複数荷主の貨物が同一コンテナに混載されるため、1社の貨物が検査対象となると全体が開披検査となり、数日から1週間の遅延が発生します。
積み替えによる時間ロス
積み替えルートでは仕分け・再積み込みの時間も加わり、納期の安定性が低下します。
追加費用の発生
- CFS搬入料:1CBMあたり3,000~5,000円
- バンニング費用:1コンテナあたり2~5万円

これらにより、LCLは、小ロットや試験販売には有効である一方、顧客納期が厳しい案件には注意が必要です。
FCLがコスト・納期面で有利になる条件
FCLは1コンテナ単位輸送で”連れ検査“リスクがなく、納期の安定性が高いです。
FCL選択の判断基準
- 容量の目安:貨物量がコンテナ容量の6割を超えるとLCLより経済的になることが多い
- 具体例:20フィートコンテナの容量(約28CBM)に対し18CBM積載すればFCLの方がトータルコストで有利
FCLの標準的な追加費用
- 港湾費(THC):34,000~51,000円
- 通関費用:8,000~15,000円
- 書類作成費:5,000~1万円
注意すべき点
デマレージ・ディテンション料金は無料日数を超えると1日数千円~数万円発生するため、港湾混雑時は特に慎重な管理が必要です。
航空便を選択すべき緊急性の高い場面
航空輸送は、1kgあたり数百円~千円超と高額です。その代わりスピードが圧倒的に優れています。
航空輸送の特徴
- 輸送時間:上海や広州から日本主要都市への直行便なら1~2日、通関を含めても3日以内に納品可能
- 適用場面:展示会、ライン停止防止、短賞味期限品には不可欠
課金システムの理解
- 課金は実重量ではなく「体積重量(CBM×167kg)」が基準
- 計算例:0.5CBM・重量50kgの貨物は体積重量換算で約84kgとなり、実重量より割高になる

航空輸送は、小型高単価品や緊急案件に限定するのが現実的な選択です。
税関検査強化時の対応とリードタイムへの影響
中国税関は輸出入品目によって検査を強化します。食品、化粧品、化学品、医療関連品は対象になりやすく、広州交易会や春節前は検査件数が増える傾向があります。
検査による影響
- 遅延期間:検査が実施されれば2~5日の遅延は一般的
- 対応プロセス:フォワーダーが税関当局と調整し、検査日程や再梱包の手配を進める
リスク最小化の方法
事前に以下の書類を整備することで、リスクを最小化できます。
- HSコードの正確な申告
- 成分表の準備
- ラベル表示の適正化
検査と並んでトラブルが多いのがキャンセル・遅延時の費用です。詳しくはキャンセル料とSLAで解説しています。
条件別シミュレーション例
実際の貨物を想定した具体的なコスト比較してみましょう!
ケース1:10CBM貨物(雑貨)
- LCL:10CBM×8,000円=8万円+CFS費用
- FCL:約20万円
- 結論:LCLが有利
ケース2:18CBM貨物(アパレル)
- LCL:18CBM×8,000円=14.4万円+CFS費用
- FCL:約20万円
- 結論:コストは拮抗、納期安定性でFCLが有利
航空輸送例:0.5CBM/50kg貨物
- 計算:実重量50kgだが体積重量84kgで計算
- 費用:1kg1,000円とすると8.4万円(実重量より7割割高)
リードタイムの比較
リードタイム(輸送に必要な日数)の観点での比較は以下の通りです。
- FCL上海→東京:7~10日
- LCL:10~14日
- 航空:2~3日
インコタームズと費用負担の違い
契約条件による費用負担範囲も重要です。
主要な貿易条件
- FOB:本船積み込み以降を買主が負担
- CIF:売主が運賃・保険料までを手配
- 航空輸送:CPT・CIPが用いられる
契約条件を誤解すると「どこまでが売主負担か」でトラブルに直結するため、明確な理解が必要です。FOBとCIFは、費用負担の範囲は違います。ですが、危険負担の切り替えポイントは同じであることを十分に注意した方が良いです。
保険を考慮する
貨物保険を付保する際は「ICC(A)」など補償範囲の広い条件を選び、FCL/LCL/航空で異なるリスク(破損・紛失・遅延)をカバーすることが重要です。
貨物特性による輸送手段の選択
貨物の特性によっても適切な輸送手段が変わります。代表的な品目と最適な輸送方法は以下の通りです。
特性別の選択指針
- 重量物・大型貨物:FCLまたはOOG(特殊コンテナ)輸送が基本
- 危険品:IMDGコードに従い、事前申請と適合容器が必須
- 温度管理品:リーファーコンテナまたは航空のコールドチェーンを利用
- 高額品:航空輸送+高額保険でリスクを分散
- 精密機器:防振梱包+航空短期輸送でダメージを最小化
輸出実務で活用できる輸送方法の判断基準チェックリスト
実務での判断を支援するチェックリストを以下に示します。
基本的な判断要素
- 貨物量:容積・重量を算出しFCL/LCL損益分岐を計算
- 納期要求:7日以上余裕→海上、緊急→航空
- リスク許容度:LCLは安価だが遅延リスク、FCLは安定性重視、航空は確実性優先
- コスト試算:数値比較による根拠ある判断
- 契約条件:インコタームズ・保険の明確化
- 貨物特性:重量物・危険品・高額品は特別対応を考慮
中国輸出で最適な輸送手段を選択するための重要ポイント
各輸送方法の特徴まとめ
- LCL:低コストだが遅延リスク大、CFS費用も要確認
- FCL:一定量超でコスト・安定性に優れる
- 航空:短納期で有効だが体積重量換算に注意
成功のための重要要素
税関検査や港湾混雑はリードタイムに直結、対策必須
契約条件と保険範囲を正確に理解しリスクを管理
貨物特性ごとに適切な輸送手段を選択
数値的根拠に基づいた判断の実施
中国実務で活用できるチェックポイント
契約条項(SLA)の例
- D&Dフリー:CY5日/DET5日を基準、超過は買主負担
- LCL混載費用(CFS・バンニング):帰属を明記
- 検査費用:書類不備は当事者、通常検査は買主負担
- キャンセル料:ブッキング後はT-3日50%、当日100%
- 遅延連絡:2時間以内に初報、24時間ごとに進捗+代替案提示
変動要因チェック(○/×形式)
- 繁忙期の港湾混雑(春節・国慶節)によるLCL遅延リスク
- 小口混載では他社貨物検査に巻き込まれる可能性
- 為替・燃油サーチャージの急激な変動
- トラック不足や内陸搬入料の高騰
中小企業向け実務チェックリスト
- LCL利用時は「検査による全体遅延」リスクを必ず確認
- FCL移行の損益分岐(コンテナ容量6割超)を試算
- 見積に含まれるCFS費用やバンニング費を精査
- 契約条件(FOB・CIF)による費用範囲の変化を確認
- 航空輸送は体積重量課金を計算に含めて判断
CIQや税関検査は避けられないリスクです。適切な輸送方法の選択により、これらのリスクを最小限に抑えながら、効率的な中国向け輸出を実現することが可能となります。
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日本人で中国の大学を卒業し、何十年も中国専業フォワーダーとして生きています。中国輸送の事なら、どんな困難な事でも実現できるよう努力します。
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