中国デジタル通関の実務ガイド:電子化時代に通関を止めない体制構築法
急速に進展する中国通関制度の電子化
中国では税関申告、検疫手続き、船舶会社マニフェスト、港湾手配に至るまで、あらゆる通関業務の電子化が急速に進んでいます。特に「単一窓口(Single Window)」の導入と事前電子データ送信の厳格化は、輸出入業務の成否とタイミングに決定的な影響を与えています。
本記事では、中小企業でもすぐに導入できる体制整備の方法と、実際に発生しがちなデータ不備や貨物の積み残しを防ぐための具体的な対策を、業務の流れに沿って詳しく解説します。
中国電子税関システム「単一窓口」の全体構造
中国の単一窓口(中国国际贸易”单一窓口”)は、税関(GACC)を核として、海事、港湾、船舶会社・航空会社のデータを一元的に連携させるシステムです。2018年に出入境検験検疫総局(AQSIQ)が廃止され、その機能が税関に統合されたことで、現在「CIQ機能」は税関システム内に組み込まれています。
このシステムの主な目的は以下の3つです
- データ重複入力の削減:同一データの複数回入力を不要にする
- 事前審査の迅速化:審査プロセスを効率化する
- 港湾オペレーションとの連動:港湾業務と税関業務をスムーズに連携させる
システムでは、貨物の基本情報(品名・HSコード・重量・件数・原産地・価格)と関係者情報を同一のキーで照合し、わずか1項目でも不一致があると自動照合エラーが発生し、審査保留や通関遅延につながります。

実務のポイント:品名マスタと対訳辞書を社内で整備し、品名・型番・材質・用途を統一された表現で管理します。
電子マニフェスト送信義務と遅延防止策
中国では海上輸送・航空輸送ともにAdvance Manifest(事前マニフェスト)送信が義務化されており、基本的なルールは以下のとおりです。
- 海上輸送:本船積み付けの24時間前(24-hour Rule)
- 航空輸送:到着の4時間前
この期限を過ぎると貨物の積み残しリスクが大幅に高まります。実務上は船舶会社別の締切表を案件ごとに整備し、送信後は必ずACK(受領確認)を取得、エラーコードが発生した場合は即座に修正するというルールを徹底します。
QRコード通関・電子原産地証明の運用状況
QRコード通関
上海洋山港、天津港、深圳前海、広州南沙港、厦門港などの保税区で広く運用されており、トラックドライバーがアプリでQRコードを提示してゲートを通過できる仕組みです。
電子原産地証明(e-CO)
RCEPの枠組みで利用が増加しています。ただし、中国の地方税関によっては審査速度や運用解釈に違いがあり、「すべてがオンラインで完結」できるわけではありません。場合によっては後日、紙の書類提出が必要になることもあります。
実務のポイント:部品構成表(BOM)や原産性管理を常に最新状態に保ち、設計変更や委託先変更の際はすぐにe-CO更新対応を組み込みます。
日本NACCSとのデータ連携の現状と課題
当初は「完全に別系統」とされていましたが、2021年以降、大手フォワーダーやEDIプラットフォームを介して日中間のB/Lデータ連携が進んでいます。NECや日通NECPort等のEDIハブを経由して、主要船舶会社の海運B/Lや航空AWBの「間接連携」が順調に進展しています。
典型的な課題として以下が挙げられます。
- HSコードの解釈差異
- 重量単位の変換問題
- インコタームズ表記の違い
輸入規制品目管理コード
中国特有の「輸入規制品目管理コード」とHSコードの照合精度が厳格化されており、食品、医薬品、電気製品などではCCC認証やCIQ登録番号が必須となるケースがあります。

実務のポイント:社内で統一マスタを構築し、重量・数量の許容差について事前に合意しておくことで、手戻りを大幅に減らすことができます。
電子データ不備による積み残しトラブルの実例と対策
事例1:B/L品名と申告品名の表現差による照合エラー
状況:B/Lに「Plastic articles」、申告書に「Polypropylene molded parts」と記載。自動マッチングができず審査対象となり、予定船に積載されず
対策:品名マスタに許容表現を登録し、B/L用の短文と申告用の詳細文を連携。以後は自動整合ができる。
事例2:受荷人情報の文字化け
状況:会社名の一部が文字化けし、税関登録番号と紐付かず、Advance Manifestが拒否され、再送により締切を超過
対策:UTF-8固定と外字使用禁止をガイドライン化。住所は英数字・省略形を標準化
事例3:重量差異0.6%による保留
状況:港湾での計量とインボイス重量にわずかな差異が発生。自動保留となり照会応答に1日を要した
対策:計量票の画像添付と補足コメントをテンプレート化。以降は±1%以内であれば問題なし
事例4:e-CO差し替え遅延
状況:RCEP原産地の電子証明で品番更新を失念。税率適用不可となり一般税率での課税が発生
対策:設計変更ワークフローに原産地再評価タスクを追加し、e-CO再発給のSLA(サービス水準合意)を設定
港湾連動と税関リスク管理システムの実態
単一窓口は港湾システムと完全連動している港もあれば、予約やゲート手配は別系統で運用している港もあります。さらに、中国税関はリスク管理システム(Risk Management System)を使用してランダム検査や優先度付けを実施しており、データが完全に一致していても貨物が止められる場合があります。「データ一致=必ず通過」とは限らないのが現実です。
港湾・ターミナル入場予約(トラック予約制:Truck Appointment System)と連携している港もあります。主要港はほぼ対応が完了しています。
デジタル通関時代に求められる社内体制の構築
1. データ統一
品名・HSコード・単位・対訳を一度決定し、全員で統一して使用する
2.締切な管理
Advance Manifest締切を船舶会社別に可視化し、ACK確認を徹底する
3. 責任分担
各項目の最終責任者をSOP(標準作業手順書)に明記する
4. 証跡保全
計量票・写真・ACK番号を必ず保存する
5. 教育と監査
新人教育と四半期ごとの監査により体制を維持する
これらを標準化することで、中小企業でも「電子データ不備による積み残し」を大幅に削減し、港湾の混雑期においても安定した通関業務を実現することができます。
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