特殊貨物輸送の実務ガイド:通常貨物とは異なるリスクを確実に回避する方法
特殊貨物が持つ高リスク性と通常貨物との根本的違い
同じコンテナを使用する場合でも、中身が危険品、温度管理品、超重量物、展示品になると、適用されるルール、手配の工程、責任の分界点がまったく異なってきます。これらの特殊貨物に共通するのは、「情報の欠落が積載拒否、品質劣化、違反罰金、巨額のやり直し費用に直結する」という点です。
この記事では、中国⇔日本の実務で頻繁に発生する4つの領域を深く掘り下げ、「止めない」「壊さない」「違反しない」ための実践的な知識と対応策を解説します。また、中国特有の国内法令や行政リスクを踏まえ、現場で実際に役立つ補足情報も組み込みます。
危険品輸送における基本原則とIMDG規制への対応
分類確定がすべての出発点
危険品輸送では、UN番号、クラス、副次危険、梱包等級(PG)、海上汚染性、閾値(LQ/EQ)を確定しなければ輸送全体が成り立ちません。最新版のSDS(セクション14)と出荷者のDGD(危険物申告書)を照合し、表記のゆれや翻訳による差異を残さないようにします。
リチウム電池輸送の実務ポイント
分類の厳密な区別:UN3480/3481/3090/3091の区別を厳密に行い、セル・バッテリーの別、単体か機器同梱・内蔵かによって適用条項が変わることを理解する
SOC(充電率)管理:30%以下は航空輸送では必須、海上輸送はIMDGでは義務ではないが、船舶会社や荷主判断による任意規制が多い。
ラベル・マーク統一:クラス9ラベル、リチウム電池マークをB/L・マニフェスト・申告で統一する
中国国内規制への対応:危険化学品安全管理条例や新化学物質申告の対象になる場合があるため、輸出者資格の有無を必ず確認する

近年は、主要船舶会社(Maersk、ONE、MSC等)が自主的に30%SOCを要求するケースが増加しており、実務的には「ほぼ必須」の状況になっています。
化学品輸送の実務ポイント
容器・梱包管理:UN容器(PG対応)、ヘッドスペース確保、Segregation規則に基づく混載制御を実施する
緊急連絡体制:中国国内に24時間対応可能な緊急連絡先を設置(GHS準拠SDSでも求められる国際標準)
船舶会社事前審査:十分な余裕を持って提出(カットオフ直前では対応不可)
よくある現場でのNG例
- SDSのバージョンが古い。
- 品名の不一致している。
- B/L簡略名と申告名の齟齬がある。
- DGスペース申請が遅れている。
これらは積み残し・罰金・再手配に直結します。
現場チェックシート(危険品)
- UN番号・クラス・PGをSDSで確定
- DGD草案を船舶会社へ事前審査提出
- ラベル・マーク貼付写真の撮影
- B/L品名と申告品名の整合性確認
- 24時間連絡先の通話テスト実施
冷凍・冷蔵貨物の温度管理と中国規制
基本設計の重要性
- 温度設定の事前合意:設定温度・許容幅・記録周期を出荷前に必ず合意
- 必須設備の確保:PTI済リーファー、事前予冷、ジェネレーター、二重ロガーを配置
- データロガー配置:貨物内部とドア付近に分けて設置し、異常発生時の原因分析を可能にする
中国側規制への対応
- 検疫要件:GACCのCIQ部門が品目別に検疫を実施。畜肉は動物検疫証明が必須、水産物は漁獲証明や放射能検査が必要
- 輸入食品ラベル制度:「事前審査制度」に基づき、入港前にラベル登録が必要。登録なしでは差し止めリスクあり
- 保税区での対応:ラベル貼付は可能だが、登録が前提条件
トラブル対応策
- 温度逸脱対応:ロガーデータ、電源接続記録、開扉ログを揃え、原因を切り分ける。中国港湾では現場作業員が節電目的で温度を勝手に変更する例があるため、設定値変更不可を契約書に明記
- 責任分担の明確化:倉庫・配送業者は責任回避しやすいため、契約に逸脱責任を必ず明記
- 賞味期限管理:通関・検査の停止日数を含めてSafety Lead Timeを上乗せし、逆算ミスを防止
現場チェックシート(温度管理)
- 設定温度・許容幅の文書化
- PTI証跡の確保
- ロガーIDと配置図の作成
- 通電写真と接続記録の保存
- 中文ラベルの校正完了
超重量物輸送に伴う規制と許可申請
ルート設計の複雑性
- 基準と地域差:国家基準のGB規格を参照するが、実務は地方交通運輸局の裁量に左右され、地域差が大きい
- 港湾別の特徴:上海港は厳格にルート制限、内陸部では警察同行が必須のケースが多い
- 省境通過:検査や臨時規制が追加要因となる場合あり
荷役計画の策定
- 輸送方法の選択:コンテナ外寸を超える場合はフラットラック・オープントップ、さらに大きければ在来船・RO/ROを検討
- 技術資料の準備:吊り治具・重心位置・ラッシング計画(海陸共通)をメソッドステートメントとして事前承認取得
設備予約と費用管理
- 事前確認事項:クレーン能力・岸壁耐荷重を事前確認
- 予約の特徴:予約費用は高額かつキャンセル不可が多いため、計画段階での確実に手配
見落としがちな重要点
- 航空輸送:重量品(航空機部品・エンジンなど)ではULD設計や搭載可否確認が必須。空港側のクレーン・倉庫耐荷重も制約となる
- 許可申請の遅延対応:内陸当局の審査に時間を要するため、製造遅延→出荷日変更に連動した申請更新体制の構築
- ラッシング強度:海上状態(ピッチ/ロール)を想定した強度計算。第三者ラッシングサーベイの導入
- 搬入条件確認:工場・展示会場のシャッター高さ・床耐荷重を現地で実測確認
現場チェックシート(重量物)
- ルートサーベイ報告書の取得
- 許可書原本の確保
- 吊り・固定計画と強度計算書
- 港湾機材予約票の確認
- 搬入口寸法確認書の作成
美術品・展示品の一時輸送におけるATAカルネ活用
利用条件と制約
- 対象範囲:展示会出品物・サンプルなどに利用可能。課税免除・保証金不要。ただし消耗品や販売目的品は対象外
- 中国特有の制約:使用可能なのは指定通関地のみ。地方港・地方空港では通用しない
中国での実務上の注意点
- 指定フォワーダー制度:展示会ではカルネがあっても現地指定業者を通さなければ通関不可のケースが多い。
- 手続きの流れ:ATAカルネの発給(商工会議所)→入出国ごとの通関手続き(ヴーチャーに税関印)
- 入国時の対応:指定税関・港での取扱いに従い、開封検査・明細照合に時間を要する場合あり
- 再輸出期限:会期終了後は再輸出期限を厳守。遅延・紛失は課税・罰金リスクあり
よくあるNG例と回避策
- 品名・数量変更:カルネと現物の不一致は差し止め対象。変更不可前提で予備機を別送
- 部分再輸出:残置品や破損品の扱いを事前協議。事後報告は不可
- 会場搬入制限:ビッグサイト等と同様、中国会場も搬入時間・ルート制限あり。国内側と同レベルで事前確認
現場チェックシート(ATA)
- 発給済みカルネ原本の確保
- 入出国ヴーチャー押印計画の策定
- 会期後の撤収工程表の作成
- 会場搬入条件の確認
- 代替輸送計画(遅延時対応)
実際のトラブル事例が示す損害額のインパクト
各分野での典型的な損害例
- 危険品:上海港でDG記載不一致→不受理+行政処分、ブラックリスト入りリスク。再申請・保管料で数十万円規模
- リーファー:無通電による全量廃棄。仕入原価+廃棄費用+信用失墜
- 重量物:許可未取得で内陸足止め。迂回・再申請で数百万円規模の追加費用
- ATAカルネ:期限失念→課税・罰金。展示会利益が完全に消失する典型例
特殊貨物輸送を成功させるための準備と外部連携
法令・規制遵守の徹底
中国国内法令(危険化学品規制、食品ラベル制度、重量物超限運輸規制、展示会指定業者制度)を必ず確認すること
証跡管理の体系化
分類→SOP→チェックシート→証跡(計量票・写真・ロガー・許可証写し)の体系的管理
保険と契約の見直し
DG保険料加算、リーファー温度逸脱免責、重量物吊り荷担保などの特約確認。契約には不可抗力条項や遅延費用分担を必ず明記
専門家との連携を強化する。
DG許可証を持つ中国フォワーダー、ラッシングサーベイ、温度管理コンサルタント、展示会ハンドラーを計画段階から参画
継続的な教育と監査
社内教育で特殊貨物のリスクを周知し、四半期ごとの監査実施により未然防止を図る
これらを徹底することで、中国⇔日本の特殊貨物輸送においても「止まらない・壊れない・違反しない」輸送を実現し、安定的なサプライチェーンを確保できます。
中国の専業フォワーダーが相談にのります。
日本人で中国の大学を卒業し、何十年も中国専業フォワーダーとして生きています。中国輸送の事なら、どんな困難な事でも実現できるよう努力します。
- 商業用で輸送を希望される方
- 現在、FCLやLCLで何か困っている方(輸送短縮をしたい等)
- これから中国輸送を始めたい。切り替えたいと考えている方
- 輸入代行等を利用し、初心者向け割高輸送をやめたい方
中国輸送のHOW TO


おすすめのサービス
基幹記事
貿易学習コースの一覧
分野別記事
関連記事
◆スポンサード広告