
契約・保険・賠償で守る中国輸送リスク設計

遅延・破損・損害を「想定内」にしましょう!
輸送トラブルは「起きてから対処」では遅い
中国輸入の現場では、以下のような多様なリスクがあります。
- 港湾遅延
- 破損
- 通関差止め
- 保税倉庫での盗難
しかし多くの企業は、契約書や保険条件に「どこまでカバーされるか」を理解していません。その結果、「誰も責任を取れない損害」に直面することになります。ここでは、契約・保険・賠償フローを想定内の仕組みに変える手順を解説します。
契約・保険・賠償が「分断」されている現場の実態
契約・保険・賠償がそれぞれ独立して運用されており、リスク対応の分断が大きな問題です。これらの仕組みが連動していないために、損害が発生した際に「誰が、どこまで、どのように対応するか」が不明確になっています。
1.契約条件の誤解(CFR/CIF/FOBの境界)
- 契約書に「CIF Shanghai」と書いても、保険が最低補償(ICC-C)で実質無防備
- FOB契約下で輸送遅延が起きても、船会社・売主・買主のどこに責任があるのか不明確
2.保険カバーの「思い込み」
- 「運送保険あり」と聞いても、港から港の区間のみカバー
- 倉庫保管・荷降ろし時の破損・湿気損害などは補償外
3.賠償対応が属人化
- 破損発見時に誰が撮影・報告・請求をするか決まっていない
- 結果として証拠が揃わず時効(7日)を超過し請求不能になるケースが多い
中国輸送リスクを「契約・保険・賠償」で三層防御する
契約・保険・賠償を一体的に設計するための具体策を紹介します。
1.契約でリスクを分担する(インコタームズ+実務条項)
契約条件 | 責任起点 | 注意点 | 実務対策 |
---|---|---|---|
FOB | 船積完了時 | 輸送遅延は買主責任 | 港渡しの証拠(B/Lコピー)を添付 |
CFR | 船積完了+運賃込み | 保険未付帯 | 保険条項を別途追加 |
CIF | 船積完了+保険付 | 最低限保障のみ | ICC(A)条件に変更交渉 |
DDP | 買主倉庫まで | 税関手続含む重責任 | 上限額・免責範囲を明記 |
重要ポイント
契約条件は「価格条件」ではなく「責任範囲」を定義する条項です。社内で「どこから自社リスクになるか」を可視化しておくことが重要です。
実務補強:契約書に必須の文言例
書内には、不可抗力(Force Majeure)や損害賠償に関する文言例を必ず含めましょう。
例文(不可抗力条項):
“In case of force majeure such as natural disasters, port closures,
or government restrictions, both parties shall notify each other in
writing within 7 days and share the resulting costs on an equitable basis.”
この学習コースを読まれましたか?
2.Force Majeure(不可抗力)条項を「免責」ではなく「条件付き分担」に書き換える
コロナ禍や港湾ストライキ、自然災害などは不可抗力条項で処理されますが、曖昧な書き方では「全免責=相手に丸投げ」になりやすいです。
実務上は、次の3段階で調整しておくとフェアです。
要素 | 具体内容 |
対象範囲 | 疫病・災害・港湾閉鎖・政府規制を明文化 |
通知義務 | 発生後○日以内に書面通知する義務を設定 |
損害分担 | 双方で負担割合を事前設定(例:50:50) |
契約書文例(日本語):
「不可抗力事由により履行が一時的に不能となった場合、当事者は誠実に協議し、発生から7日以内に通知するものとする。」

“Force Majeure”を「逃げ条項」ではなく「責任整理の型」にします。
3.保険で実損をカバーする(Cargo Insuranceの再設計)
輸送保険は「ICC(A)=All Risks」を基本に設定します。補償区間はWarehouse to Warehouse(倉庫から倉庫)で指定します。
追加の実務対策
- 高額・壊れやすい貨物は個別保険証券を発行
- フォワーダー経由ではなく、自社指定の保険代理店で内容確認
- 海上・航空・フェリーそれぞれに補償範囲を明記
- 保険証券番号を通関書類と一緒に保存
実務補足
保険会社と契約更新を行う際は、「補償開始地点(倉庫)」と「対象リスクの除外条項(exclusions)」を確認し、書面で残しておくこと。特に湿気・カビ・包装不備は免責対象になりやすいです。
4.賠償を制度化する(クレームフロー+証拠管理)
初動72時間以内の対応が成否を分けます。SOP内に「クレーム対応手順」を組み込み、誰が・いつ・何をするかを明文化します。
推奨フロー
- 受取時に数量・封印番号・外装状態を確認
- 損傷時は3枚撮影(全体・ラベル・破損箇所)
- 保険会社・通関業者へ同時通知(CC報告)
- Damage Reportを3日以内に提出
- 補償確定後は社内データベースで再発防止記録
法的補足
国際運送(海上運送法/ハーグ・ヴィスビー規則)では、クレーム通知期限は原則7日以内です。中国国内運送は民法典第822条により、通知義務の遅延で請求権喪失の恐れがあります。

ポイント: 証拠+時系列+書面化=補償成功率の最大化
5.契約リスクを可視化するチェックリスト
項目 | 確認内容 | 対応済 |
インコタームズ条件 | FOB/CIF/DDPの責任境界を明記 | □ |
Force Majeure | 発生範囲・通知義務を条文に明記 | □ |
保険範囲 | ICC(A)/Warehouse to Warehouse | □ |
クレーム手順 | SOP・担当部署の明記 | □ |
証拠保管 | 写真・レポートの保存先 | □ |
「契約段階で埋めるチェックリスト」をテンプレート化すれば、法務・物流・営業の連携がスムーズになります。
根拠:実際の損害と賠償成功率(事例ベース)
トラブル事例 | 原因 | 損害額 | 補償可否 | 教訓 |
フェリーで箱潰れ | 固定不良 | 80万円 | 一部補償 | 保険条件が限定的 |
港倉庫で盗難 | 蔵置管理不備 | 120万円 | 補償外 | 保管区間の明文化不足 |
通関遅延で契約解除 | 港混雑 | 700万円 | 補償外(間接損害) | 契約で免責・範囲を限定明記 |
重要: 「直接損害=保険」「間接損害=契約」で切り分けることが肝心です。
契約・保険・賠償を一体化した「輸送リスク設計図」を作る
手順の骨子
- 現行契約をレビューし、条件と保険の整合を確認
- 不可抗力条項の文言を最新に更新(2020→2025版対応)
- SOPにクレーム初動フローを追加
- 保険証券・B/L・Damage Reportの紐づけを自動化
- 半年ごとに契約リスクレビューを実施
IT活用例
Notion・Airtableなどを利用し、契約書・保険証券・報告書をリンク管理します。AI OCRを使えばDamage Reportの自動転記も可能です。
契約は「法律文書」ではなく「リスク管理ツール」として運用します。
戦略的インサイト
「リスクは”隠す”より”見せる”ことでコントロールできる」
- 施策: 契約・保険・賠償を1枚の設計図に統合
- 効果: 事故対応時間▲60%、補償成功率+30%
- 前提条件: 契約条件・Force Majeure条項・保険内容の整合
- リスク: 間接損害・精神的損害は保険外
- 重要指標: 保険請求成功率 / 契約更新率 / トラブル件数
まとめ
- 契約条件は「価格交渉」ではなく「リスク設計」そのもの
- Force Majeure条項は免責ではなく分担を明文化
- 保険範囲は「倉庫から倉庫」で指定し、空白区間をなくす
- クレーム対応をSOPに組み込むことで、証拠・報告・請求を自動化
- 契約・保険・賠償の三層構造で、「輸送リスクを想定内に変える」
中国輸送の基本コース
中国輸送の”高速化”コース


おすすめのサービス
基幹記事
貿易学習コースの一覧
分野別記事
関連記事
◆スポンサード広告