ノミネーションフォワーダーで締切を一元管理する

はじめに|「任せる物流」から「設計する物流」へ
中国からの配送を速くする最初の一歩は、配送業者の選び方と管理の仕組みをしっかり整えることです。特に中小企業では、輸出側の工場に任せきりにせず、自社が主導して「配送の決定権」を持つことが大切です。
FOB契約で配送の主導権を握る
CIFやEXW条件では工場や現地業者の判断に任せる部分が残るため、FOBまたはFCA条件で契約し、配送業者(フォワーダー)を自社で指定する形に変更しましょう。これにより、船積指示の締切・VGM締切・AFR送信・D/Oの電子化・到着前申告などの手続きを自社でコントロールできるようになります。
結果として、港や税関での“待ち時間”を大幅に削減できます。中国側の工場には「FOB化で出荷後の責任範囲が減る」ことを説明し、輸出港までのトラック費用を契約に明記しておくと良いでしょう。
フォワーダー選定のスコアリング
フォワーダーを選ぶ際は「安い・近い」ではなく、「速い・正確・透明」を重視します。以下はHUNADEが推奨するフォワーダーに対するスコアリングです。
| 評価項目 | 配点 | 評価基準例 |
|---|---|---|
| 締切遵守率 | 25 | 95%以上=A評価 |
| 緊急対応力 | 20 | 24時間対応可能=A |
| IT対応(NACCS/EDI) | 20 | 双方向連携あり=A |
| 中国主要港取扱実績 | 15 | 年間300件以上=A |
| 可視化ツール提供 | 10 | リアルタイム更新可 |
| コミュニケーション力 | 10 | 日中英3言語対応 |
スコアの合計80点以上を「指名候補」とします。さらに年1回の再評価をすることもお勧めです。中国側の工場には「FOB化により出荷後の責任範囲が減る」ことを伝え、輸出港までのトラック費用を契約に明記しておきましょう!

現在の仕入れスタイル(日本までの輸送費込み)が正しいのかを検証してみましょう!
高速化SLAを契約書に明記する
フォワーダーとの契約段階で、SLA(Service Level Agreement)を明文化しておくと、締切管理の一貫性が生まれます。以下は、その一例です。
| 項目 | 標準締切 | 備考 |
| SI提出 | 出港72時間前 | EDI経由提出推奨 |
| VGM提出 | 出港48時間前 | NACCSまたは船社ポータル |
| AFR送信 | SI確定後12時間以内 | フォワーダー責任で送信 |
| D/O発行 | 電子発行必須 | eD/O利用を原則化 |
| 到着前申告 | ETA24時間前完了 | 通関業者へ自動連携 |
| 祝祭日前 | 通常より3営業日前倒し | フォワーダーが通知 |
約束を守れなかったときの対応例
締切に間に合わなかった場合、配送業者が次の便の輸送料金を負担するか、または代わりの便を輸入者の承認なしで手配します。これを契約書の別紙に書いて、お互いに署名することで、きちんと守られるようにします。さらに毎月、締切の遵守率をレポートにまとめ、計画→実行→確認→改善のサイクルを回す仕組みを作るようにします。
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書類の電子化と共有でスピードアップ
契約を整えても、書類処理の遅れがボトルネックになることがあります。原因は紙の承認待ちやメール確認のタイムラグです。そこで、Invoice・Packing List・SIをテンプレート化し、クラウド共有+電子署名で流れを統一します。
電子化の始め方:
- クラウド共有:担当者別アクセス権限を設定し、誤送信を防止。
- EDI/NACCS連携:社内データを税関コードと整合させ、送信エラーを解消。
- 電子署名(DocuSign/Adobe Sign):ハンコやFAXを廃止。
コストと効果
年150件規模の企業でEDI導入費30〜50万円。平均2〜3時間の処理短縮で、半年以内に費用回収が見込めます。食品輸入企業では確認時間60%削減の実績もあります。
電子化の目的は「紙をなくす」ではなく、「情報がスムーズに流れる仕組みを作ること」です。共有フォルダにアラートを設定し、修正依頼を24時間以内に対応できるようにします。
リスクマネジメント:遅延を「想定内」にする。
高速化を実現しても、自然災害や船社のスケジュール変更といった外的要因は避けられません。大切なのは、リスクを「想定外」ではなく「想定内」に組み込むことが重要です。
実践例:
- 正規便A社+予備便B社の二重ブッキングで即切替。
- 台風期(7〜9月)は週2便体制で冗長性を確保。
- SLAに「AIR転送基準(CIF単価×0.1)」を明記し、判断基準を標準化。
さらに、契約書には「緊急対応マニュアル」を別紙添付し、48時間前アラートや通関停止時の代替手順(FAX・NACCS暫定申告)を定義しておきます。
ロールオーバー対応SOP例
- 代替便検索 → SI差替 → AFR再送 → D/O条件確認 → ETA更新。
- 権限委譲文例:「フォワーダーは上限コスト+10%まで自動振替可」。
- この仕組みで、対応時間を6時間→1時間に短縮できます。
SLA条文サンプル(契約書用)
以下の条文を発注書末尾に付けるだけで、契約内容が「お願い」から「実行基準」へと変わります。実際の現場では、SLAを紙で残すだけでなく、共有フォルダやプロジェクト管理ツール(Asana/Notionなど)にタスク化しておくと、担当者交代時にも抜け漏れを防げます。
第5条(納期遵守および責任範囲)
乙(フォワーダー)は、附表に定めるカット期日を遵守しなければならない。
乙の遅延により予定便に積載できなかった場合、乙は当該貨物の次便輸送に係る費用を負担する。ただし、天候・港湾障害その他の不可抗力に起因する場合はこの限りではない。
HSコードの改正とレビュー体制
契約と電子化が整っても、通関で止まる原因の一つが「HSコード改正」です。税関が新しい解釈を出すと、同じ商品でも審査が止まることがあります。これを防ぐには、定期レビューが欠かせません。
実務チェックリスト:
- 事前教示を2〜3年ごとに更新(現物写真・カタログ添付)
- 税関「関税率表改正情報」・厚労省「輸入監視指導計画」を年2回確認
- 同一HSを複数港で使う場合、地域差をフォワーダーと共有
電子部品・食品添加物など細分化が進む品目では、年2回の「HSレビュー会議」を設け、通関業者と共有するのがおすすめです。
実務導入チェックリスト
| 項目 | 実施状況 | 目標期日 |
| ノミネーションフォワーダー選定 | □ | 10月末 |
| 契約書にSLA条項追加 | □ | 11月上旬 |
| 電子署名導入 | □ | 12月 |
| EDI連携テスト完了 | □ | 12月中旬 |
| HSコード事前教示申請 | □ | 随時更新 |
| バックアップ便契約締結 | □ | 年内 |
まとめ
これらの施策を導入すれば、「書類遅れ・カット漏れ・原本待ち」といった停滞はほぼゼロにできます。契約・電子化・リスク分散・通関体制を仕組みとして整えることで、予定便に必ず載せる再現性の高い高速物流が実現します。
結果として納期遵守率は90%から98%以上へ改善し、フォワーダー・工場・通関業者の連携がデータで見える化され、経営層の意思決定スピードも向上します。これこそが、中国輸送の高速化を「運任せ」から「設計型ロジスティクス」へ変える実務的アプローチです。
中国輸送の基本コース
中国輸送の”高速化”コース

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