
日本向けRCEPの適用を“運用資産化”する方法|Form RCEP・PSR・eForm完全ガイド
はじめに|制度を“使える輸入者”がコストを制す
RCEPの発効により、中国原産品の日本側関税は段階的に引き下げられています。一方で、証明書不備や判定ミスにより適用できず、せっかくの削減チャンスを逃す企業も少なくありません。
この記事では、中国→日本の輸入に限定し、証明書発給から税関対応までを一気通貫で最適化する実務フローを解説します。RCEPを単なる制度ではなく、継続的なコスト最適化の仕組みとして“運用資産化”することを目的としています。
証明書取得前の事前確認フロー
RCEP適用の成否は、証明書発給前の準備に左右されます。出荷直前に発給エラーが発生すると、輸出スケジュール全体が遅延する可能性があります。
確認ポイント
- 中国税関またはCCPITの発給対象工場であるか(輸出者登録の有無)
- HSコード、BOM、インボイス内容の整合性はある?
- PSR(Product Specific Rules)の充足資料が揃っている?
- 発給申請に必要な日数と出荷スケジュールの調整
- 過去に発給拒否があった場合の原因分析
社内では「Form RCEP発給前チェックリスト」を標準化し、調達段階でサプライヤーと確認を済ませることで、輸出時のリスクを最小化できます。
原産地判定と証憑管理を仕組み化する
RCEPでは、原産地規則(PSR)を満たすための要件として、以下のいずれかを採用します。
- CTC(関税分類変更:CTH/CTSH/CC)
- RVC(域内付加価値比率)
- 特定工程(特定の加工が必要な場合)
実務の流れ
- CTC判定:BOMをもとにHS4桁(CTH)単位で変更が生じているかを確認します。
- RVC判定:サプライヤーからのコスト内訳書に基づき、域内比率を算出します。
- 特定工程判定:工程票や作業指示書、写真などで工程証跡を確保します。
証憑セット(保存期間:5年)
- Form RCEP原本またはe-Form RCEP(署名付きPDF)
- インボイス・パッキングリスト
- BOM/工程票/コスト内訳書
- 製造記録および契約書類
電子証明書の扱い 電子版(e-Form RCEP)はPDF署名を検証後、電子署名の検証ログを保管します。紙出力は不要であり、NACCS入力時は証明書番号と原産地コードを登録します。
部分的適用(混在インボイス)への対応
同一インボイスにRCEP適用品目と非適用品目が混在する場合、申告を行別に分けて処理します。NACCS上では原産地証明番号を該当行のみ入力し、通関業者に「行別適用リスト」を共有して誤入力を防止します。
この対応を怠ると、非適用品目にまで誤ってRCEP税率が適用される可能性があり、後日追徴のリスクが高まります。
税関監査・質問票対応のプロトコル
日本税関は、原産地証明書の真否を事後確認する場合があります。質問票が届いた際の標準対応を事前に決めておくことで、慌てず対応できます。
対応の流れ
- 質問票を受領 → 社内窓口(通関・貿易管理部門)に集約
- 期限を確認し、回答担当を指定
- 回答テンプレートをもとに必要資料を整理(証明書写し、製造証跡等)
- 提出後は再計算・追徴の有無を経理部門で確認
質問票対応の履歴を残すことで、次回以降のリスク分析にも役立ちます。
RCEP税率スケジュールの進行管理
RCEP税率は多くの品目で段階的に引き下げられます。翌年度適用税率を確実に反映させるには、年度切替時のマスタ更新が必須です。
運用ポイント
- RCEP関税スケジュール表を年度ごとに更新
- 経理または貿易管理部門が責任部署としてマスタ登録
- 新税率を見積・発注システムに自動反映
社内フローの固定化と教育
RCEP適用を継続的に運用するには、属人化を防ぐ仕組みが重要です。
部門別の役割分担例
部門 | 主な業務 | 内容 |
---|---|---|
調達 | サプライヤー確認 | Form RCEP発給可否・PSR充足データ入手 |
物流 | 証憑確認 | BOM・工程票・証明書受領確認 |
通関 | 申告 | NACCS入力・証明書番号登録 |
経理 | 実績管理 | 削減額・適用率・不備率をモニタリング |
教育・再現性確保 担当交替時に30分程度のRCEP運用レクチャーを実施し、社内資料(運用マップ・チェックシート)で再現性を担保します。
ROI(費用対効果)で優先品目を選定
RCEP適用は“全品目対応”よりも、費用対効果の高い品目から始めるのが効率的です。
ROI計算式
ROI = 関税削減額 ÷ 証明書取得コスト
ROIが1.5を超える品目を優先して適用すると、手続きコストを抑えつつ成果を出しやすくなります。上位20品目から対象を拡大する戦略が現実的です。
実務で使えるチェックリストと資料例
- Form RCEP発給前チェックリスト
- 品目コード精査フロー図(HS誤判定防止)
- 事後検証チェックリスト(税関質問票対応)
- RCEP税率スケジュール表(年度別)
- 電子証憑承認ルート図(署名検証~保存)
- 契約書へのRCEP責任条項追記例
まとめ|制度理解より“運用設計”が鍵
- 日本向けはRCEP一本。Form RCEP以外(Form E/AJ等)は対象外です。
- PSR(CTC/RVC/特定工程)を品目ごとに判定し、証憑を5年間保管します。
- NACCS入力・監査対応・マスタ更新までを一連の仕組みとして運用化します。
- 「知識」よりも「仕組み化」。これが継続的なコスト最適化の決め手
関税の“概算額”を知りたい方はこちら(RCEP対応・関税計算ツール)
中国輸送の基本コース
中国輸送の”高速化”コース


おすすめのサービス
基幹記事
貿易学習コースの一覧
分野別記事
関連記事
◆スポンサード広告