
北米の港から倉庫までの輸送費はなぜ高い? インランド費用の実態
海上運賃が下がっても、物流コスト全体は下がらない理由
最近、多くの企業から「海上運賃は落ち着いてきたのに、物流コスト全体はあまり下がらない」という声をよく聞きます。その原因となっているのが、港から倉庫までの陸上輸送、いわゆる「インランド輸送費」の高止まりです。
こうした声の背景には、単なる市況変化ではなく構造的な要因があります。その構造を知ることが、次の一手を見出す第一歩です。
この記事では、北米の輸送構造を分かりやすく分解し、インランド費用がなぜ上昇し続けるのかを整理します。感覚的な理解ではなく、構造的に理解することで、自社のコスト分析や港の選定判断に役立てましょう。
よくある誤解:北米輸送の費用構造
まず、現場でよく見られる誤解を整理しておきましょう。誤解を正すことが、正しい理解への第一歩です。
北米の輸送費用は、「港(Port)→鉄道(Rail)→トラック(Truck)→倉庫(Warehouse)」という4つの段階で構成されています。
しかし、多くの日本企業は海上運賃ばかりに注目し、内陸区間はフォワーダー(物流業者)任せにしているのが実情です。その結果、次のような誤解が生まれやすくなります。
- 「CIF条件なら港までだから、関係ない」
- 「フォワーダーに任せておけば十分」
- 「内陸費用は変動が激しくて管理できない」
では、こうした誤解がなぜ生まれるのでしょうか。その背景には、費用の構造自体が複雑で、“見えにくい”という問題があります。
実際には、契約条件、港の選び方、貨物の特性、最終目的地によってコスト構造は大きく変わります。特に「CIF契約=港止め」という思い込みは、追加費用が発生する原因になります。
港から倉庫までのルートと費用の内訳
北米では、港から数千キロ離れた内陸都市へ貨物を運ぶのが一般的です。港でコンテナを降ろした後、鉄道で内陸のコンテナターミナル(CY)まで運び、最後はトラックで倉庫へ届けます。
代表的な区間の費用例:
区間 | 平均距離 | 費用目安(40ft) | 主体 | 備考 |
---|---|---|---|---|
港(LA/LB)→内陸CY(Chicago) | 約2,000mile | 約2,800USD | 鉄道 | IPI運賃・FSC含む |
CY→倉庫 | 約200mile | 約600USD | トラック | Drayage+Chassis Fee |
倉庫保管 | – | 約400USD | 3PL | Storage 5日間想定 |
これらを合計すると、海上運賃を上回るコストになることも珍しくありません。港、通関場所、配送方法の設計を間違えると、想定外の費用がかかる構造になっているのです。
インランド費用が上昇する5つの理由
以下は、インランド費用が上昇する主な理由です。
要因 | 内容 | 実務的影響 |
IPI制度と内陸CY維持費 | 鉄道会社のターミナル維持コスト | CY閉鎖・スルーレート上昇 |
労務・燃料・保険の複合上昇 | ドライバー賃金・燃料・保険料上昇 | Mile単価上昇・FSC増加 |
復路空コン率(Imbalance) | 内陸→港の戻り輸送が空走 | 一方向運賃上昇 |
鉄道キャパ不足・遅延 | 労働争議・老朽化・軌道整備不足 | LT延長・在庫費増加 |
スルーレートと通関地誤設定 | CIF Chicagoのような誤記 | 追加請求・契約外費用 |
これらは複合的に作用し、「鉄道遅延→倉庫での滞留→保管料増加→トラック待機費用」という費用の連鎖を生み出します。費用は単発ではなく、積み重なって発生するのです。
数字で見る北米インランド費用の現状
2025年時点では、ロサンゼルスからシカゴまでの40ftコンテナ輸送が約2,800ドル前後(鉄道+搬出費込み)です。繁忙期には3,200ドルを超えるケースもあります。
- BTS運輸業者物価指数:+1.9%上昇
- C.H. Robinsonのトラック輸送レポート:マイル単価が前年比+4%
燃料価格は為替と連動するため、ドル建てコストはさらに膨らむ傾向にあります。こうした数字の背景には、実務上の契約記載内容が密接に関係しています。とくに、B/L上の表記ひとつが総コストに直結します。
船荷証券(B/L)上の「Port of Discharge: Los Angeles」「Place of Delivery: Chicago」という記載が、インランド費用込みの契約を意味します。海上運賃が安くても、支払総額が上がる理由はここにあります。契約書の地名一つが、コスト構造全体を左右するのです。
実務で必ず確認すべき3つのポイント
それでは、このインランド費に対して確認するべき3つのポイントをご紹介します。
1.Place of Delivery(最終引渡地)の明記
港止めなのか、内陸まで含むのかを契約書・B/Lで明確にする
2.IPI費用の区分確認
一括運賃に含まれているのか、別途請求されるのかを確認する
3.費用の分離見積
フォワーダーに海上運賃と内陸運賃を分けた見積を依頼する
さらに、次の2つの指標(KPI)を導入すると、コスト変動を数値で把握できます。
- Inland Cost per Mile(1マイルあたりの内陸コスト)
- Port-to-Door Total(港から納品先までの総コスト)
重要な気づき:港選びが利益率を左右する
これらのデータを把握すると、最終的な利益率は港の選び方に大きく左右されることが分かります。インランド費用は単なる「追加運賃」ではなく、北米物流ネットワーク全体の問題です。港湾の混雑状況、鉄道の接続、倉庫の空き状況など、構造的な要因が複雑に絡み合っています。
例えば、サバンナ港を使う企業は港の効率性を重視し、ロサンゼルス港を使う企業は航路の多さを重視します。同じシカゴ向けでも、選ぶ港によって1本あたり数百ドルの差が生じます。つまり、「港を選ぶ=輸送設計を選ぶ」ということです。
まとめ:まずは現状を見える化することから
インランド費用は、海上運賃よりも変動が激しく、IPI制度や燃料費、人件費に大きく影響されます。契約条件と最終引渡地(Place of Delivery)が、実質的なコスト決定要素になります。
まずは現状の可視化から始め、KPI(1マイルあたりのコスト/港から納品先までの総コスト)で各ルートを分析しましょう。
契約時の簡易チェック表
項目 | 内容 | チェック |
Place of Delivery が明記されているか | 契約・B/Lで一致しているか | □ |
IPI費用の区分が明確か | 港込み or 内陸別請求か | □ |
見積書に附帯費の明細があるか | Fuel/Storage等の費用内訳 | □ |
次回は「設計で勝つ:港湾・ルート・通関地の最適化」をテーマに、コストを”下げる”のではなく、”構造的に減らす“方法を解説します。さらに第3回では、契約・運用・データで問題の再発を防ぐ仕組み化について掘り下げます。


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