
管理で削る:契約・運用・データで北米インランド費を“コントロール可能なコスト”に変える
「高い・読めない・説明できない」内陸費を“管理可能”にする
北米輸送を担当する多くの企業が抱える課題――それは、インランド費が高止まりし、変動の理由を説明できないことです。フォワーダーの見積書が不透明、契約書の範囲が曖昧、そして社内でデータが統一されていない。この3点が揃うと、どれだけ設計を見直しても現場で崩れます。
この記事では、第1回「構造を理解」、第2回「設計で減らす」に続き、第3回として“管理で制御する”ための実務を解説していきます。
内陸費がブラックボックス化する3つの構造的理由
内陸費がブラックボックス化するのは、主に3つの構造的な理由があります。制御不能な状態を解消するには、まず原因を正しく把握するようにしましょう!
1. 契約条件の境界が曖昧である。
「CIF Chicago」「CIF Dallas」など、インコタームズの誤用によって、海上区間の外側までコストを吸収するケースがあります。さらに、契約書に「Port of Discharge」や「Place of Delivery」が明記されていないと、フォワーダー側が任意に補完し、思わぬ請求が発生することもあります。
2. 見積明細が統一されていない
船会社・3PLごとにフォーマットが異なり、燃料サーチャージやシャーシ費などの項目が混在。これでは比較も分析も不可能です。
3. 社内データが不統一
物流・経理・営業の部門ごとに費用定義やコード体系が異なり、横断的なKPI管理ができない。結果、設計段階での最適化が運用段階で崩壊します。
“設計を維持する仕組み”を作る3段階アプローチ
上記の構造的な問題を踏まえて、契約・運用・データの3段階で設計し、再発を防ぎます。
Step 1:契約で縛る(Contract)
まずは契約段階でコスト境界を明確化します。FOB/CIF/DAP/DDPの実務範囲を再定義し、誤用を防ぐことが基本です。
典型的なトラブルは「CIF Chicago」――港からシカゴまでの鉄道・トラック費用が含まれず、3,000USD以上の追加請求が発生した例です。

契約書に Port of Discharge(荷揚港) と Place of Delivery(引渡地) の両方を明記するだけで、この誤解は防げます。
推奨文例:
“Charges beyond Port of Discharge are not included unless otherwise agreed in writing.”
💡 事例補足:契約修正の実例
あるメーカーでは、CIF条件を誤って内陸地に設定し、想定外のトラック費を請求されました。以後は契約書に「Port of Discharge」と「Place of Delivery」を明確化し、再交渉時に次の条文を追記。以降、請求トラブルがゼロに。
“Any inland transportation beyond the Port of Discharge shall be subject to separate written agreement.”
Step 2:運用で見える化する(Operation)
契約による枠組みを固めたら、次は現場運用の透明化です。
見積や請求を標準化し、フォワーダー向け発注条件書に「内訳開示義務」を設けます。IPI運賃・Fuel Surcharge・Storage・PierPassなどの項目を明示することで、費用発生の追跡が可能になります。
費用項目 | 発生条件 | 管理方法 | 担当部門 |
---|---|---|---|
Fuel Surcharge | 距離×レート×月次調整 | DOE指数連動 | 物流 |
Demurrage | Free Time超過日数 | 契約時明示 | 通関 |
Storage | CY滞留日数 | 倉庫システム連携 | 倉庫管理 |
Chassis Fee | 使用日数 | 運送会社請求書で確認 | 経理 |
さらに、内陸費低減の代替策を制度として運用します。
- Inland Bonded(内陸通関):港滞留を回避。
- Co-load(共同配送):近郊DC間で混載。
- Short Truck分割納品:1台満載主義を見直し柔軟運用。
Step 3:データで制御する(Data)
- 運用の透明化ができたら、変動要因を継続的に管理するフェーズへ進みます。
- KPIとデータ連携を統一し、変動コストを“管理変数”に変えます。
主要KPI:
- Inland Cost per Mile(距離あたり輸送コスト)
- On-time Delivery Ratio(納期順守率)
- Demurrage Rate(滞留率)
データ統合の具体例:
ツール | 主な目的 | キー項目 |
ERP(SAP / Oracle) | 契約・請求の統合 | Shipment ID, Vendor Code |
WMS / TMS | 倉庫・輸送データ連携 | Delivery No., Container No. |
BI(Power BI / Data Studio) | KPI可視化・異常検知 | Charge Code, Date, Threshold |
💡 異常値是正の簡易プロセス
- KPI閾値を超過(例:Demurrage Rate 10%超)
- 自動通知 → ロジ担当確認
- 原因分類(契約/運用/外部要因)
- 対応策登録 → 翌月レビューで再評価

このように「誰が」「いつ」「何を判断するか」を明確にすると、管理が“属人化”しません。
数字で見る“管理不能”の現場構造
北米物流費の約40%は内陸費であり、そのうち30%がFuel・Storage・Demurrageなどの附帯費です(FreightWaves調査 2025年3月)。
多くの企業ではフォワーダー任せで内訳が把握されていません。
しかし、これらの変動費はインデックス化・データ化で制御可能です。ブラックボックスを壊す最短ルートは、「契約で明記」「データで整備」の二本柱が重要です。
自社で使える3つの統制ツール
1.契約チェックリスト(内部監査用)
- Port of Discharge/Place of Deliveryの空欄禁止。
- CIF条件で仕向地が内陸地名なら再交渉を指示。
2.発注条件書テンプレート(社外提示用)
IPI/Truck区分の明示、Fuel・Storageなどの開示義務条項を付与。
3.月次KPIレポートフォーマット(社内共有用)
内陸費の月次推移(USD/mile)、滞留件数、Fuel Surcharge率、Free Time超過率を可視化。
情報の非対称をなくせば、コストは自然に下がる
ここまでの仕組みを統合すると、コスト削減は自然な結果として現れます。コスト削減の最短ルートは「交渉」ではなく「情報の対称化」です。
契約・運用・データを一体化し、なぜ発生したかを即答できる状態を作る。
これこそが“管理で削る”の本質です。内陸費は交渉対象ではなく、設計・契約・可視化の3段階でコントロールすべきコストです。
まとめ:再発しない仕組みを作る
- CIF/DAP/DDPの境界を明確にし、契約でコスト範囲を固定する。
- 見積・請求明細を標準化して、運用段階で可視化する。
- KPIとデータ統合により、変動費を“管理可能”なコストに変える。
インランド費の制御とは、単なる節約ではなく「再発防止の仕組みづくり」です。情報を整えることこそ、最大のコスト削減策になります。
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