特殊貨物の種類と実務対応方法
オーバーゲージ貨物と重量物の基本的な区分
オーバーゲージ貨物とは?
オーバーゲージ貨物とは、標準コンテナの寸法を超える貨物です。
例えば、40フィートコンテナの内寸法は、長さ約12メートル、幅約2.3メートル、高さ約2.4メートルです。これらの寸法を超えると概ねオーバーゲージ扱いです。

但し、実務的には『外寸』を基準にする場合が多いです。
海上コンテナの選び方・種類と積載設計ガイド|重量物・特殊貨物に強い最適解とは?
重量物輸送とは?
重量物輸送は、港湾クレーンや標準的な荷役機材で扱える重量を超える貨物が対象です。港湾によって異なりますが、一般的なガントリークレーンなら、40トン~60トン程度が目安です。これを超える場合は、大型クレーンや専用の重量物船の使用が必要です。
- 一般的なガントリークレーン:40トン~60トン前後
- 重量物専用の港:100トン以上

オーバーゲージ貨物や重量物の一部(特に建設プロジェクトや発電設備関連)がプロジェクトカーゴに含まれます。
代表的な貨物の特徴と対応方法
ここでは、代表的な貨物の特徴と対応方法をご紹介します。
建設機械の場合
- 自走式の建設機械はRORO船での積載が可能
- 非自走式の場合はフラットラックコンテナを利用
どちらの場合も燃料や油類の抜き取り、防錆処理が必要です、また、道路法や排ガス規制などの関連法規への対応が必要で、輸送中の油漏れや部品破損が典型的なトラブルです。
プラント設備や工業機械
- 大型の設備はモジュール化して輸送することが一般的
- 木枠梱包や鉄骨スキッドを使用して保護
- 通関時には「部品扱い」か「完成品扱い」かによって規制対応が大きく異なる

設計段階から吊り点や固定方法を計画に反映させることが重要です。
風力発電部材
特にブレードは70メートル~100メートルを超える場合もあり、道路輸送では橋梁の制約や電線の高さが大きな課題となります。場合によっては標識の撤去や電線の引き上げ作業が必要です。道路法、港湾法、電気事業法などの関連法規への対応が求められます。
医療機器や精密装置
- 薬機法や輸入国の規制(FDA、CEマークなど)への適合が必要
- 温湿度管理や防振梱包が必須
- 輸送中の衝撃や規制不適合による通関停止が主なリスクです。
発電機や変圧器
- 重量が集中している特性があるため、重心管理が特に重要です。
- 重量物専用船や多軸トレーラーを使用し、吊り点設計や荷重計算が必要
- 吊り上げ中の転倒やラッシング不足による事故が典型的なトラブルです。
鉄道車両
- 特徴: 1両20m超、重くて長い → オーバーゲージ貨物
- 海上輸送: 専用の固定具でフラットラックや船倉に固定
- 陸上輸送: 線路幅や橋の強度が制限 → 多軸トレーラー必須
- 分割輸送: 台車と車体を分けて2分割することが多い
航空機部品(胴体・翼・エンジン)
- 特徴: 軽いが長い・かさばる → 収容が困難
- 翼・胴体: フラットラックや専用固定具が必要
- エンジン: 重いため専用台で振動対策・湿気管理が必須
- 注意点: 輸入時に航空安全規制(EASA、FAAなど)の証明書が必要な場合あり
大型ボート・ヨット
- 特徴: FRPやアルミ製で傷つきやすい → 特別な保護が必要
- 固定方法: 船台(クレードル)で複数箇所を支える
- 輸送方法: デッキ貨物が多い → 塩害・強風対策カバー必須
- 陸送: 長さ・幅が規制オーバー → 許可申請が前提
大型タンク・圧力容器
- 特徴: 石油化学・食品工場用、円筒形で直径が大きい
- 吊り上げ: バランスが偏りやすい → 設計ミスで転倒事故の危険
- 表面処理: コーティング済み → 衝撃・擦り傷対策が必須
- 規制: 一部は危険物扱い → IMDGコードなどの確認が必要
実務的な輸送計画の要点
- 荷姿の設計:大型貨物は分割輸送やモジュール化を前提として検討
- ルートの調査:橋梁の耐荷重、道路幅、電線の高さなどを現地調査で確認
- 関係者との調整:電力会社や自治体と協議し、通行許可の取得や警備員を手配する
- 許認可の取得:特殊車両通行許可や危険物輸送許可、輸入国での各種認証を取得
- 計画図の作成:工程ごとのフロー図を作成し、関係者全員で共有します。
損害防止のための梱包と固定
- 防錆処理:防錆剤の塗布、真空パック、乾燥剤の使用により腐食を防止します。
- 固定の強化:鉄骨スキッドや強化木枠、鋼線ラッシングを適切に活用します。
- 養生対策:防水シートや耐衝撃材を使用して荷役時の損傷を予防します。
- 精密機器の保護:防振材、断熱材、防温資材を組み合わせて外的要因をコントロール
オーバーゲージ貨物の国際輸送・よくあるトラブルと対策
- 油漏れの問題:燃料や油類の抜き取り処理を徹底します。未処理の場合は清掃費用が発生します。
- 荷崩れの発生:固定不足が主な原因です。ラッシングの強化や第三者検査の実施で防止できます。
- 通関の停止:規制確認不足が原因です。事前教示制度の活用で回避可能です。
- 納期の遅延:道路制約の調査不足が主な原因です。計画段階で予備日を組み込みます。
荷役中の損傷
問題: 長い物や重い物を吊り上げる時、吊り方を間違えて貨物が変形・破損
- 吊り点の設計ミス
- 吊り具の不足
- 対策: 事前に吊りスケッチを作成し、荷主・船会社・港湾業者の3者で確認
船会社からの追加費用
問題: 大型貨物は特別な作業が必要なため、追加費用を請求される
- デッキ貨物サーチャージ
- ラッシング費用(固定作業費)など
- 対策: 契約時に追加費用の有無を確認し、予想外のコスト発生を防ぐ
搬入先での受入れトラブル
問題: 輸入地の工事現場で大型トレーラーが入れない
- 進入路が狭すぎる
→ 荷下ろしが長時間停滞
→ 現地で追加費用発生(レッカー手配、養生撤去など) - 対策: 輸送前に搬入先の受入れ調査(Site Survey)を実施
輸送費本体の他、付随コストに十分に注意する
特殊貨物輸送では、本体の輸送費だけでなく付随コストが大きな割合を占めます。
- 特殊車両通行許可の申請費用(1件数万円~)
- 電線や標識撤去・引き上げ作業費(区間数キロで数百万円規模)
- 港湾での大型クレーン追加費用(数十万~数百万円/回)
場合によっては、海上運賃を上回ることすらあります。
また高重量貨物は一般の貨物保険でカバーされない損害が多いため、Institute Cargo Clauses (A) に加え、「重量物特約」「第三者賠償責任保険」を組み合わせるのが現場の標準です。
貨物特性による管理優先度
- 重量物:輸送リスクとコスト影響度が共に高く、重心計画と吊り能力確認が最優先事項です。
- 長尺物:輸送リスクは高いがコスト影響度は中程度で、ルート調査と電力会社との調整が重要です。
- 精密品:輸送リスクは中程度ですがコスト影響度が高く、梱包と温湿度管理に注力
- 規制対象品:輸送リスクとコスト影響度が共に高く、認証取得と法規遵守が必須です。
貨物分類マトリクス(リスク・優先順位)
貨物属性 | 輸送リスク度 | コスト影響度 | 優先対応 |
---|---|---|---|
重量物 | 高 | 高 | 重心計画・吊り能力確認 |
長尺物 | 高 | 中 | ルート調査・電力会社調整 |
精密品 | 中 | 高 | 梱包・温湿度管理 |
規制対象品 | 高 | 高 | 認証取得・法規遵守 |
規制対応書類の不足に注意
通関トラブルで最も多いのが「必要な書類の不足」です。商品の種類によって求められる書類が大きく異なるため、輸出入前に商品分類を確定し、必要な証明書を事前に確認することが重要です。
例えば、建設機械なら排ガス規制証明やHSコード判定書、電気機器ならPSE・CEマーキングやUL認証が必須です。プラント設備では材質・溶接関連の証明(WPS/PQRなど)が必要で、医療機器では薬機法の輸入販売業許可やGDP基準の輸送管理書類が求められます。
これらを後から準備すると輸送スケジュール全体が大幅に遅れるため、設計段階から「規制リスト」を作成して関係者で共有することが大切です。
必要な証明書と資料
輸送時には材質証明書、性能証明書、安全適合証明(CE、UL、PSEなど)、防錆・防湿処理証明、税関事前教示資料などを準備する必要があります。
代表的な規制リスト例
建設機械・車両関連
- 排ガス規制証明(EPA / EU Stage V / 国土交通省認定証明書)
- 騒音規制適合証明
- HSコード判定書
電気・電子機器
- 日本国内:PSEマーク(電気用品安全法)
- 欧州向け:CEマーキング適合宣言書(LVD・EMC指令など)
- 米国向け:UL認証、FCC認証(電波関連)
プラント設備・工業機械
- 材質証明書(Mill Certificate, MTC)
- 溶接施工要領書(WPS: Welding Procedure Specification)
- 溶接性能確認記録(PQR: Procedure Qualification Record)
- 圧力容器の場合:ASME認証、PED(欧州指令)対応書類
医療機器・精密装置
- 薬機法に基づく「製造販売業許可書」または「外国製造業者認定」
- FDA認可(米国)またはCEマーク(欧州)
- GDPガイドライン準拠輸送管理文書(温度ログ、バリデーション記録)
発電機・変圧器
- 電気事業法に基づく型式認可証明
- 絶縁材やPCB関連の使用制限証明
- UL/CSA/IEC規格認証書
風力発電関連部材
- 鋼材の強度試験成績書
- 国際溶接学会(IIW)認定書
- 輸入国エネルギー当局の設置承認書類

上記の書類が必要となる場合があります。
まとめ
特殊貨物輸送では、貨物特性の正確な理解と関連規制の把握が成功の鍵です。輸送計画、梱包、固定、許認可を一体的に進めることでトラブルを最小化できます。貨物のリスクを体系的に管理し、事前教示制度や関係者調整を徹底することで、様々な案件に対応する能力を高められます。こうした体系的な知識の蓄積が、国際物流における競争力の確立につながります。
次の記事>>「第3回:特殊貨物の輸送モードの正しい選び方」
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